◆原発の抱え持つ構造上の脆弱性

R:なるほど、福島以外の原発でも、燃料棒にピンホール(小さな穴)が空いていたり、折れて損傷していたりと、いろんな事態があるということがわかりました。このことについて、まず小出さんはどうお考えでしょうか。

小出:まず、皆さんに燃料棒のイメージを持っていただきたいのです。形で言うと、外形が約1センチ、長さが4メートルという細長いパイプです。そして、パイプの厚みがわずか0.6ミリ、厚いものでも0.9ミリぐらいしかないという、そんなものなのです。

なぜ、そんなに薄くしてあるかと言うと、そのパイプの中にウランを焼き固めたペレットというものが入っているのですが、そこでウランが核分裂を起こ して熱が出てくるわけです。原子力発電所という機械は、その熱を燃料棒を通して外側にある水に伝えて、それで蒸気を発生させて発電するというシステムなの ですが、パイプが厚いと熱が伝わりにくくなってしまいますので、できるだけ薄くしなければいけません。その一方で、その燃料棒というのは、ウランが核分裂 してできてくる核分裂生成物を閉じ込め、水の方には漏らさないという大切な役割もまた負わなければいけないのです。

つまり、放射能を漏らさないためには、できるだけ厚くした方がいいのですけれども、逆に熱を通すためには薄くしなければいけないということで、なか なか難しい課題を背負わされているものなのです。原子力をやるにあたって「この程度でいいだろう」と、様々な試行錯誤を繰り返しながら今日まで来ているわ けです。

金属のパイプというのは時には、傷が付いたり穴が空いたりということは避けられないわけです。特に原子力発電をやり始めた当初は、多くの原子力発電 所のたくさんの燃料棒が、穴が空いたり割れたりしました。先ほど聞いていただいたように、折れて無くなってしまうというような事も起きました。

そういうトラブルは燃料棒に限ったものではなく、その他、原子力発電所の中の様々な配管でも、これまでたびたび様々なトラブルが起きています。 2004年8月には、はやり美浜原子力発電所で、二次系のもの凄く太いパイプがいきなり割れてしまって、作業をしていた労働者5人が熱湯を浴びて死んでし まう事故もありました。

R:つまり放射能という制御できないものを、大変細い管の中に入れて管理をしている。実はそれが原子力発電所の一番の心臓部にむしろ脆弱性があるという理解をした方がいいということですか。

小出:おっしゃる通りです。それは避けられないのです。

R:そういう事を最初から科学者たちはわかっていたわけですよね。

小出:もちろんです。分かっていましたし、なんとか壊れないようなものを作りたいと、技術的には一歩一歩進んで はきているのです。けれども、放射能は閉じ込めなければいけないし、熱は通さなければいけないという根本的な矛盾を抱えたものですので、完璧に欠陥を防ぐ ということは今日に至ってもできないでいるわけです。

R:「福島第1原子力発電所が事故を起こしたから、原発を止めなければいけない」ではなくて、そもそも原子力発電所というものの構造自体、科学的に無理がある、無茶がある、というふうに思えるのですが。

小出:私はそう思います。
東京電力福島第1原発事故が起こり、原発安全神話は崩壊した。だが、そもそも安全神話など存在せず、以前から原子力発電所では事故が頻発していたし、隠ぺ い体質も今に始まったことではない。そのことは関係者にも科学者にも周知の事実であり、何も知らず、知ろうともしなかったのが私たち市民というわけだ。

 

「小出裕章さんに聞く 原発問題」まとめ

 

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