「フルMOXという原子炉は世界でも大間だけです」

北海道函館市が4月、青森県大間町に建設中の大間原子力発電所について、建設の差し止めを求める訴訟を東京地裁に起こした。自治体が原告として原発 差し止め訴訟を起こすのは、日本では初めてのこと。この大間原発の問題について、京都大学原子炉実験所・助教の小出裕章さんに聞いた。(ラジオフォーラム)

京都大学原子炉実験所・助教の小出裕章さん
京都大学原子炉実験所・助教の小出裕章さん

●函館市と大間町は同じ生活文化圏

ラジオフォーラム(以下R):まず、この大間原発の立地について教えていただけますか。

小出:はい。青森県の下北半島の最北端にあります。本州最北端ですね。すぐ向かい側が北海道ということで、大間 原発から函館市の市役所のある所まで30数キロだと思います。函館市の一番近い所までなら20キロ程度しかないという、そんな所です。大間町は青森県では ありますけれども、青森市とのつながりは大きくなくて、むしろ海峡を挟んだ函館市とのつながりが大きい。要するに、生活文化圏としては函館市と一緒に生き てきたという、そういう町なのです。

R:それで函館市が異議を唱えていると......。

小出:はい。電源開発株式会社、最近はJ-POWERとか呼ばれていますけれども、その会社が大間原子力発電所 を建てるという計画を随分昔に立てたのです。けれども、すったもんだ様々なことがあって、なかなか実現に至らなかったのですが、2008年5月にようやく 着工して現在造りつつあるということなのです。しかし、福島第一原子力発電所の事故を受けて、一時期工事すらできない状態でした。それが今また再開されて いるという状態です。

R:大間原発には他の原発とは違う特徴があると聞いていますが。

小出:はい。私たちの間ではフルMOX炉と呼んでいます。Mixed OXideという英語の単語の頭文字を取っていまして、日本語で言うと、混合酸化物燃料と私たちは呼んでいます。一体、何を混合しているのかと言うと、普 通の原子力発電所の燃料はウランで作られているのですけれども、大間の原子力発電所の燃料は、ウランだけではなくて、それにプルトニウムという物質を混合 させて燃料に使うという特殊な原子炉です。

 

●宙に浮いたプルトニウム

R:プルトニウムを燃料とする原子炉は、日本には他にもあるのですか。

小出:はい。

もともと日本にある原子力発電所は、ウランを燃やすというために設計されてこれまで運転されてきました。しかし、原子力発電所を運転すると、使用済 み燃料の中にプルトニウムという物質が自動的に溜まってきます。そのプルトニウムという物質は、長崎に落とされた原爆材料だったものです。原爆に使えるぐ らいだから、原子力発電所の燃料にも使えるということで、日本では原子力発電所の使用済み燃料の中から、プルトニウムを取り出してきました。

と言いましても、日本がそれを実行できるわけではなくて、イギリスとフランスに送って、再処理という作業をしてもらい、プルトニウムを取り出しても らってきました。長い間、それを続けてきて、今、日本には、いわゆる日の丸の印が付いたプルトニウムが44トンあるという状態になっています。

日本はそれらのプルトニウムを原子力発電所で燃やすと言ってきたのですが、本来それを燃やすための高速増殖炉という原子炉は、日本にはない原子炉な のです。そして、もんじゅという高速増殖炉を完成させてそこで使うと公式には言ってきたのですが、そのもんじゅが全く動かないのです。

44トンものプルトニウムが行き場をなくしてしまっているわけです。プルトニウムというのは原爆材料そのものであり、もし44トンのプルトニウムで 長崎型原爆を造れば、4000発もできてしまう。それほどのプルトニウムを、日本は使い道もないまま懐に入れてしまったのです。そのため、日本は国際的に 大変不審の目を向けられ、使い道のないプルトニウムは持たないという国際公約をさせられました。

しかし、もんじゅを含めて高速増殖炉は動かない。それなら、もう仕方がないから、ウランを燃やすために設計された普通の原子力発電所で燃やしてしま おうという、誠に愚かで危険な策謀を始めました。それがプルサーマルと呼ばれてきた計画です。しかし、プルサーマルで燃やせる量などしれているのです。そ こで、なんとかプルトニウムをひたすら燃やせるような原子炉を造りたいということになり、それが大間原子力発電所のフルMOX、つまり、プルトニウムをひ たすら燃やすという目的のために造られた原子炉です。

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