●世界で唯一のフルMOX炉

R:単にウランを燃やすだけじゃなくて、そこに大変濃度が高いプルトニウムを混ぜるということは、非常に難しい技術が求められるのではないですか。

小出:はい。おっしゃる通りです。特に今、日本がやろうとしているプルサーマルというものは、もともとウランを 燃やす為に設計された原子炉の中に一部プルトニウムも混ぜ込んで運転しようとする計画です。皆さんは、石油ストーブをお使いだと思いますけれども、石油ス トーブの燃料は灯油です。灯油を燃やす為に設計されたのが石油ストーブですけれども、石油ストーブでガソリンを燃やそうとすれば火事になってしまうわけで すね。ですから、本来ウランを燃やすために設計された原子炉でプルトニウムなどを燃やしてはいけないのです。私は、プルサーマルという計画に反対してきま した。

一方、今度の大間原子力発電所は、初めからプルトニウムを燃やすために設計するという原子炉です。設計の考え方としては、私はプルサーマルよりはいいと思います。

しかし、プルトニウムという物質は、ウランよりも核分裂の連鎖反応をコントロールしにくいという基本的な性質を持っています。おまけにプルトニウム という物質はウランに比べて放射能の毒性が20万倍も高いというほどの猛毒物質なのです。100万分の1グラムのわずかなちりを、もし誰かに吸い込ませる ことができれば、その人を肺がんで殺せるというほどの猛烈な猛毒物質です。それを取り扱うということ自身に危険がともないます。万が一、事故にでもなれ ば、その被害の危険が普通の原子力発電所以上に大きなものとなります。

R:こういう新しい形の原子力発電所というのは、世界にはいくつかあるのですか。

小出:フルMOXという原子力発電所は世界に一つもありません。

R:この大間原発だけですか。

小出:そうです。日本の場合には少し特殊な事情がありまして、核兵器材料であるプルトニウムを大量に貯め込んでしまって、それを何とかしなければいけないというところに既に追い込まれてしまっています。その事情のために、こんな原子炉も必要になっているわけです。

長い間、先延ばしにされてきた使用済み核燃料の問題。そのツケとして今、プルサーマルやフルMOXという危険な計画がある。大きな事故が起きれば、その災 禍はいかばかりか。仮にこれらの原子炉がうまく動いたとしても、次々に生み出される高レベル放射性廃棄物の問題は、やはり先延ばしにされてゆくだろう。ど ちらに転ぼうが、日本人の子々孫々までその大きなツケを背負わされることになるだろう。

 

「小出裕章さんに聞く 原発問題」まとめ

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