◆ 住宅の市場取引が普遍化 平壌には10万ドルアパート登場 農村の家も売買
北朝鮮では、国民の住宅は国家が建設し、党や政府の機関、企業所の単位で、勤労者に無償で提供することが建前になっている。衣食住を国が保証する社 会主義配給制度の一環である。したがって、日本の植民地時代から使用されているごく一部の住宅を除いて、ほぼすべての不動産は国家と、協同農場などの協同 団体による社会的所有であり、売買・賃貸・抵当(家を借金の担保にとること)はいずれも禁止されている。しかし近年、当局は国民の需要を満たすだけの住宅 をまったく供給できなくなってしまった。1990年代半ば以降の経済難の中で、売れる(需要のある)ものは何でも売って生計を維持する傾向が国民の間で強 まり、住宅もまたその対象になった。その結果、現在では非公式ながら、都市部と農村部を問わず、北朝鮮全域で実質的な「住宅市場」が誕生している。咸鏡北 道会寧市周辺における住宅売買の実態を報告する。(取材 パク・チャヌ ペク・チャンリョン 訳・整理リ・チェク)
市場の近い住宅ほど高額 取締りには賄賂でもみ消し
今回の調査を担当したのは、北朝鮮の咸鏡北道会寧(フェリョン)市に住む取材協力者のパク・チャヌ。6月初旬に調査を行った。以下はパクの報告である。
「現在、北朝鮮ではほとんどの住宅が売買の対象になっているが、仮にも国家財産であるだけに、入居するには国が発行する『住宅入舎証』(住宅の使用を許可する書類)が絶対に必要になる」
端的に言えば、この「入舎証」を売買するのが、社会主義を標榜する北朝鮮における住宅売買なのである。「入舎証」を管理しているのは、日本の都道府 県に当たる道では、道人民委員会都市経営局で、市・郡では人民委員会都市経営部の住宅配定処だ。住宅を買いたい者、売りたい者は、この役所の官吏たちに賄 賂を払って名義を書き換えるのだ。その手配は売主側で行うのが一般的だという。
ちなみに、北朝鮮においては政府の住宅政策とは関係なく、特定の機関が金儲けを目的にアパートや一戸建て住宅を建売する場合が多いが、そうした物件も、表向きは国家の所有物として登録される。
平壌で「模範住宅」の価格高騰
もともと国から個人へ割り当てられた住宅物件も売買の対象になっている。平壌以外の地域では、国家による新規の住宅建設が皆無に近いため、かつてま だ社会主義的な配給制度が機能していた時代に割当てられた古い物件の居住権が売買されている。地方の場合、新しい住宅は、国に建設する金がないため、党や 政府の関係機関、傘下機関が、金儲けのために建売しているものがほとんどである。つまり権力者たちが不動産開発した新築の住宅が「住宅市場」に投入されて いるのである。
もちろん平壌においても住宅の売買は活発に行われている。最近、親族訪問のために平壌を訪れた在日朝鮮人によると、北朝鮮が「先軍時代の模範的な住 宅」と称している万寿台通りの住宅の場合、建設が始まった2008年当時には「入舎証」が1~ 2万ドルで売買されていたが、完工後の現在は9~11万ドルにまで高騰している。これは、現在平壌でも最も高い物件である。
90年代、平壌や地方の大都市のもっとも高級な物件は「1万ドルアパート」と称されていた。それが今や、平壌では十倍に高騰しているわけだ。地方都 市でも「3万ドルアパート」程度の物件は珍しくなくなっている。価格の高低を決める条件は何か。もちろん普請の程度が大きいが、駅や市場からの距離が大き く作用するという。