◆宗教施設破壊や財産没収も横行
「24時間以内に町を出ないキリスト教徒は全員殺す」
7月中旬、イラク北部モスルを支配するイスラム過激勢力の「イスラム国」は、立ち退き命令を布告した。このためキリスト教徒たちは、家と土地を捨てて、町 から逃れた。「すべてを奪われ、これからどうやって生きていけばいいの」と脱出した主婦は電話での取材に声を震わせるばかりだった。(玉本英子)
「イスラム国」がモスルを制圧したのは、6月上旬。隣国シリアで勢力を伸ばし、支配地域で独自のイスラム法を強制、抵抗する者を処刑するなどしてき た。キリスト教徒の主婦、サマル・ハビブさん(30)は一家で隣のクルド自治区に逃れたものの、物価が高く生活が困難だったことと、友人たちが町へ戻った ことを聞き、再びモスルへ帰った。
「イスラム国を信用することはできなかったが、どこにも行くあてはなかった」と言う。
モスルへ戻り、教会に行くと、マリア像は粉々に破壊されていた。
イスラム教徒の隣人が、サマルさんの家を訪れた。
「キリスト教徒を攻撃するという話しを聞いた。町を出たほうがいい」。
一家は再び荷物をまとめることになる。
「あなたたちは隣人であり、きょうだいなのに、こんなことに...」
隣人たちは別れ際にそう言って、涙を流したという。
一家が、隣のクルド自治区アルビルへ逃れた数日後の7月18日、イスラム国は「イスラム教徒に改宗しない者、人頭税を支払わない者は、24時間以内 に町を出ない場合、殺す」と布告した。人頭税とは、イスラム国がキリスト教徒のみに課した「税金」だ。市内に残っていたキリスト教徒のほとんどが家や土地 をあきらめて追われることになった。サマルさんの友人は、町を出る際、「イスラム国」の検問所で武装兵士たちに、車、現金、貴金属など、着ているもの以 外、すべてを没収されたという。
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