◆ 最終処分場を福島に押し付ける可能性も
R:それから気になるのは、原発から出る使用済み核燃料、いわゆる高レベル放射性廃棄物の最終処分場の選定につ いてです。これまでの自治体による応募方式では、どこも応募なんかしないわけで、政府から候補地を示す方式に転換するというふうに盛り込みました。これ は、今後どういうふうになると予想しますか。
小出:要するに、本当は埋めてはいけないゴミなのです。残念ながら、私たちは原子力に手を染めてしまい、核分裂 生成物という放射性物質を膨大につくってしまったのですが、それを無毒化する力を私たち人間は持っていません。ですから、それらをどこかに隔離をしなけれ ばいけないのは確実なのですけれども、日本の政府はそれを地面の下に埋めてしまえばいいという方針でこれまでやってきたのです。
しかし、一体そこに何年間じっと埋めておけばいいのかといえば、10万年とか100万年という時間の長さなのです。そんなものを科学が保証できる道理がないわけであって、本来やってはいけないやり方だと私は思ってきました。
私自身は国とそういう論争を続けてきたわけですが、2012年9月11日に日本学術会議という組織が、「埋め捨ては正しくないから、一から考え直 せ」という答申を出したのです。私は、なぜ今まで黙っていたのかと学術会議に対して文句を言いたくなりましたけれども、でも、学術会議の言っていること自 身は正しいことだったと思います。
それを受けて本当であれば、埋め捨てにするという方針を変えなければいけなかったはずなのですが、埋め捨てにするという方針自身は全然変えるつもり はないようです。これまではどこかの自治体が手を挙げてくれるのを待っていたけれども、それではダメだからと、今度は国の方で候補地選定を強権的に押し進 めるという、そういうやり方に打って出てきたわけですね。本当に酷い政権だと私は思います。
R:今いくつか候補地が、噂の段階ですが出ております。こういう所に対してお金で懐柔するか、あるいは、最後は 力ずくで、強制代執行という手段に訴える可能性もあるのでしょうか。最終処分場を作らないかぎり、これ以上原子力発電を続けられませんから、彼らも手段を 選んではいられませんよね。
小出:そうです。これまでにも候補地として狙われていた所はたくさん日本中にあるわけです。その内のどこかに、また白羽の矢を立てて、今度は国家の側から強制的に執行してくるという可能性はあると思います。私が今、心配しているのは福島です。
福島では広大な土地が放射能で汚染されてしまっており、その内の15平方キロメートルを国有地化するというような方針を先頃自民党の政権が出してき ました。15平方キロメートルというのは、埋め捨ての場所を取る時に必要な面積にほぼ近いです。そういう所を国有地化した上で、放射能の最終的な処分場も そこに押し付けようという魂胆かなと私は疑いました。
R:そのような動きをどうやって食い止めればいいのでしょうか。
小出:皆さん、きちんとやはりものを考えていただきたいと思います。こういう言い方は良くないと承知の上ですけ れども、「愚かな国民には愚かな政府」という言葉がありましたけれども、国民自身が賢くならなければ、今のこの酷い時代が、これから更に酷い時代に向かっ ていくという流れを止められないのではないかと、私は大変不安に感じています。
事故後、民主党政権は2030年代に原発ゼロの方針を掲げた。それでも、即時ゼロを求める人たちを中心に大きな批判が起こった。そして、2012年衆院選 では、「全てのエネルギーの可能性を掘り起こし、社会・経済活動を維持するための電力を確実に確保するとともに、原子力に依存しなくても良い経済・社会構 造の確立を目指す」との公約を掲げた自民党が勝利を収め、政権に戻った。
その選挙からわずか一年で出てきた新エネルギー基本計画。人々の意識から急速に福 島の存在が薄れ行くのを、見透かされているかのようである。