飛散事故の真因2

2013年12月中旬に名古屋市の地下鉄・六番町駅で起きたアスベスト飛散事故をめぐり、市側と事業者側で意見が対立。遅々として原 因究明が進まない。事故の原因はいったい何なのか、これまでの取材を基に専門家に聞いた。なお、情報や分析は3月下旬の初出段階のままである。(井部正 之)

名古屋市・六番町駅の地上にある換気塔。事故時にはこの付近でもアスベストが検出された(2013年12月撮影・井部正之)
名古屋市・六番町駅の地上にある換気塔。事故時にはこの付近でもアスベストが検出された(2013年12月撮影・井部正之)

 

◆気温差と電車の動きが原因? 「呼吸する現場」の悪影響

施工方法にも問題があったとコンサルタントは証言する。

すでに説明したように、アスベスト除去工事はまず現場を隔離養生して、密閉状態に近い状態にし、負圧除じん機により養生内を負圧にするとともに、フィルターでアスベストを除去する。

しかし、隔離養生をする際、一切隙間をなくし養生内を密閉状態にしてしまった場合、負圧除じん機を稼働させることで養生内の圧力が下がりすぎてしまい、養生が内側に破れてしまったり、負圧除じん機に不具合を生じたりする。

こうした事態が起こらないようするため、養生内を一定の負圧に保つ程度には空気を供給する必要がある。そこで作業員が現場内に出入りをするのに利用 する前室の出入口を少しだけ開けておく。それによって空気を養生内に供給して場内の負圧を一定に保つとともに、外部から前室、養生内、負圧除じん機という 空気の流れをつくるのである。

ところが、今回の工事はそうなっていなかった。

市環境局によれば、吸気塔から空気を取り入れる形となっていて、しかも前室を通らず直接養生内に引き込んでいた。

2人のコンサルタントは「これもおかしい。前室からの空気の流れをつくるのは基本です。これだと前室から漏えいしやすい」「前室以外から吸気するべきではない」と指摘する。

つまり、もともとアスベストが漏えいしやすいような施工方法だったということだ。

こうした典型的な施工・管理ミス以外の要因もあった。2人のコンサルタントが注目したのは地下鉄駅構内の機械室におけるアスベスト除去工事だったに もかかわらず、地上でもアスベストが検出されていることだ。地上でアスベストが検出されたのは、地下の駅構内に空気を引き込むための吸気塔のすぐ近くだっ た。

コンサルタントらは「地下から地上への空気の流れができていたのはまず間違いありません」と話す。

そもそもアスベスト除去工事をしていた機械室は、地上から地下に新鮮な空気を取り込み、駅構内やホームに送る送風設備が置かれた部屋だ。そのため機械室は地上や駅構内、ホームと送風用のダクトでつながっている。

しかも除去現場と地上は送風ダクトを通じてつながっていた。するとどういうことが起こるのか。コンサルタントの1人が解説する。

「地上と地下の温度差による上昇気流が存在した可能性があります。地上の吸気塔の高さは5メートル。機械室は地下10メートルはあるはず。事故の あった日の名古屋市は、最高気温9.7℃、最低気温4.3℃です。この季節、地上より地下は暖かいですから、仮に駅構内が15℃だとすると、地上との温度 差が朝で10℃以上、昼で5℃ほどある。10℃の温度差があれば、少なくとも4~5パスカルほどの上向きの空気の流れができるはず。現場に設置する負圧除 じん機は1時間に4回現場内の空気を換気する能力が規定されていますが、これはせいぜい3~5パスカル。負圧除じん機が正常に稼働していたとしても、常に 同じ力で地上に向けて空気の流れがあるわけですから、除去現場内を負圧に保つことができません」

すると本来なら地上から地下の除去現場内に空気を引き込むはずが、地上と地下の温度差によって生じた上昇気流によって空気の流れが阻害されて、逆流した可能性があるのだという。

2人のコンサルタントはさらに別の空気の流れが存在したとも指摘する。

「この現場は呼吸しているんです。地下鉄のホームに立ってみればわかると思いますが、電車が来ると最初は空気に押されるようになって、通り過ぎると 引っ張られます。つまり電車が駅に入ってくると急激に加圧になり、通り過ぎると減圧される。空気が吸われたり、吐かれたりする。送風ダクトがきちんとふさ いであれば、その影響は少ないと思いますが、地上側で出ていることを考えるとシート養生だけだったり、きちんと閉じてなかったのではないか。どのような影 響が出ていたかは調べてみないと何とも言えませんが、前室から養生内、負圧除じん機という通常の空気の流れが阻害されて逆流し、前室から外部にアスベスト 粉じんが漏れたり、養生が破れたり、様々な悪影響が考えられます」
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