◆「嘘、隠ぺいなどで事件を鎮静化しようとする学校や教委の姿勢、変わっていない」との声も
学校内でのいじめや体罰などで子どもを亡くした遺族らのシンポジウムが6月1日、神戸市中央区で開かれた。昨年9月に施行された「いじめ防止対策推進法」で設置が義務付けられた調査組織をめぐり、「事後対応」について意見が交わされた。(矢野宏)
遺族らでつくる「全国学校事故・事件を語る会」の主催で、北海道や山形、福岡など全国から120人が参加した。
まず、山形県でいじめを訴える遺書を残し自殺した県立高校2年の女子生徒(当時16歳)の両親が振り返った。
「娘が校舎の屋上から飛び降りたのは2006年11月22日の正午過ぎ。警察発表でいじめに遭っていた内容の遺書も明らかになり、校長も『いじめを視野に入れて調査する』と約束しました。私達は学校を信頼していました」
だが事件から3か月後、県教委の調査結果報告書には、
「いじめがあったという事実は確認できなかった」とあり、
「まるで娘が勘違いして命を絶ったかのような内容で、娘が残した遺書の内容とはあまりにもかけ離れたものでした」と振り返る。
県教委は一方的に記者会見を開いて調査結果が事実だと公表する。高校教育課長は「いじめなどではなく、まあセクハラのようなもの」という無神経な発言をしている。
両親は、学校側が実施した生徒・教職員へのアンケート調査を開示するように求めたが、「プライバシーの問題がある」として拒否された。また、第三者 委員会による再調査を求めたところ、山形地方法務局が人権侵犯事件として調査に乗り出してきた。だが、その調査結論も「人権侵犯の有無は確認できない」と いう内容だった。県教委は法務局を第三者委とし、再調査を願う両親の訴えに耳を傾けようともしない。
「法務局には正式な調査依頼もしていないのに割り込むように入ってきました。なぜ、このような形式的な内容なのか尋ねると、『我々には調査権もなく、任意で話を聞くことしかできないので調査には限界があるのです』と、あまりに無責任な説明でした」
娘の一周忌法要のとき、両親は顔と実名を明らかにし遺書の一部も公表した。さらに、同級生たちの家を訪ねて話を聞きに回ったが難航したことで、「早い段階での事実確認が重要です」と訴えた。
いじめ防止対策推進法が施行されてから学校や教育委員会の態度は変わったのか。
いじめが原因で11年に自殺した大津市立中学2年の男子生徒(当時13歳)の父親は「学校などは情報を適切に提供することになっているが、生徒へのアンケートの開示すら認めないなど、遺族や被害者に説明責任を果たそうとしない態度は今も変わっていません」と語った。
さらに、学校や教委に調査組織の設置を義務付けられていることについて、「第三者委のメンバーを人選するのは教委。第三者とは言えないメンバーで構成され、『いじめはなかった』という結論へ誘導しているのが実情」と批判した。
兵庫県たつの市で1994年、体罰を受けて自殺した児童の父親で、主催団体の代表世話人を務める内海千春さん(55)は「事実を調査せず、嘘、デ マ、隠ぺいで事件を鎮静化しようとする学校や教委の姿勢は20年前から変わっていません。第三者委は、遺族に代わって闘う姿勢がないと、『事実の解明』に 近づくことはできません」と訴えた。
【矢野宏 新聞うずみ火】