大防法改正の見通しを伝える記事。見出しには「濃度測定を義務化」ともあったが、実際には濃度測定の義務化は見送られた
大防法改正の見通しを伝える記事。見出しには「濃度測定を義務化」ともあったが、実際には濃度測定の義務化は見送られた

 

◆対策強化~表面的なものに過ぎないとの指摘も

2014年6月1日、改正大気汚染防止法が施行された。「アスベスト規制の強化」を謳ってはいるものの、今回の法改正は形式的な内容 ばかりで抜本改正にほど遠い。じつのところ、まともな規制強化とならない兆しは、法改正の検討を開始する前となる2012年春の段階ですでにあり、批判も されていた。法改正前にどのような問題が指摘されていたのかを改めて振り返りたい。なお、情報や取材対象の役職などは初出の2012年6月当時のままであ る。(井部正之)

「石綿飛散防止で法改正」

2012年5月16日、新聞各紙にこんな見出しが躍った。環境省が、2013年にも大気汚染防止法改正を目指し、アスベスト対策強化に乗り出すことを報じたものだ。

記事では、現在、任意とされているアスベスト濃度測定の義務化や、解体現場への立ち入り権限強化といった、改正のセールスポイントが好意的に報じられていた。

だが、この動きは「表面的なものにすぎない」との指摘がある。同省と厚生労働省が共同実施する「東日本大震災アスベスト対策合同会議」などで委員を務める、元兵庫県立健康環境科学研究センター主任研究員の小坂浩氏が明かす。

「もっともらしい説明をしていますが、それはごく一部にすぎません。国側の本当の狙いはリアルタイムモニターの導入です」

空気中のアスベストの測定は現在、ポンプで一定時間吸い込んだ空気をフィルターに通し、位相差顕微鏡でそのフィルターを見て一定の形状や大きさの繊維状粉じんをアスベストとして計測している。

つまり人が顕微鏡で見て、アスベストかどうかを判断している。そのため、結果が出るまで数時間から数日間を要する上、分析する人によって差が出ることがある。

そこで、空気中の繊維状粉じんを自動測定し、常時その計測値を見ることができるという測定機「リアルタイムモニター」を導入しようというのだ。

環境省は解体・改築現場におけるアスベストの漏洩を迅速に確認するのに有効として、2009年ごろからこの測定機の導入を検討、国として標準的な測定法(公定法)に指定しようとしてきた。

そこには「公定法にしないと売れない」という事業者の要望も影響しているようだ。

ところがである。もともと繊維状粉じんを常時測定できるとの触れ込みだったはずが、2010年度の同省の検討会で計測するうちに、何を測っているの かわからないデータが出てきたのだ。しかも、その原因究明もしないまま、濃度が上下する推移をもって漏洩を監視できると言いだす始末だった。

「測定したという既成事実だけ積み重ねて、十分な検証をしないまま、無理やりそれを法に位置付けようとしている。そんなことは許されません」と小坂氏は憤る。

2011年度の合同会議でも、計測値の根拠を尋ねられる場面が何度もあったが、その原因究明や説明は十分になされていない。ただ計測結果を報告するばかりだった。

確かに環境省も、「測定機の精度に課題がある」と認めている。にもかかわらず環境省大気環境課長の山本光昭氏は、外郭団体の新年会で、公定法への導入について「事務次官まで話が通っている」と自慢げに話していたという。

同氏は「全然記憶がない。伝聞は尾ひれが付くもの」と否定するが、実用性に水を向けると「監視方法として有効」と強調するところからも、やはり既定路線とみられる。
~つづく~
【井部正之】

※初出「アスベスト対策で進められる 測定機導入に潜む"怪しい"思惑」『週刊ダイヤモンド』2012年6月16日号

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