◆「子どもたちの瞳のなかに、誇りをみたい」
土井:
爆撃で家族を殺された住民の中には「ハマスのロケット弾攻撃のせいで、イスラエルから攻撃され自分はさらに苦しむことになる。ロケット弾で攻撃するのは止めてくれ」という住民も少なくないと思います。
ラジ弁護士:
私は「人間の尊厳は命より大切」と言って来ました。もちろん多くのガザ住民はこれに賛同しないかもしれない。我々は誰しも弱い人間ですし、自身のことを最優先に考えがちです。
「人間の尊厳が命より大切だ」というのは、私自身について言っているのです。ただ私だけではく、私の周囲の理性的な人もそうです。たとえ空爆が止ん だとしても、ここではこれからも封鎖、失業、貧困、分断、爆撃、殺戮、流血が繰り返される。自分の運命も自分で決められず、建設的な生活をすることもでき ず、普通の人間のように行動することもできない。
この悲惨な状況、非人間的な状況に置かれているのです。私たちは今すぐにはパレスチナを解放できなことはわかっています。しかし少なくとも人びとは イスラエルの抑圧と攻撃を甘受するだけで抵抗しないまま犠牲者となる道を選びたくはないのです。人間としての誇りと強さを持ちたいのです。
たしかにたくさんの血が流れ、なにもかも失ったという絶望感さえ住民は感じている。それでも人びとは自由と人としての尊厳を大切に思っているのです。そして自分の子どもたちの瞳のなかに、羞恥ではなく、「誇り」をみたいと願っているのです。(了)
【聞き手:土井敏邦】
ラジ・スラーニ:1953年ガザ市生まれ。弁護士。パレスチナを代表する人権活動家、オピニオン・リーダー。1995年ガザ市で「パレスチナ人権センター(PCHR)」を創設。イスラエル占領時代、5年近く逮捕・拘留され、激しい拷問を受けた。長年の人権擁護の活動は国際的に高く評価され、ロバート ケネディ人権賞(1991年)、フランス人権賞(1996年)などを受賞。2013年12月、"第二のノーベル平和賞"ともいわれるライト・ライブリフッド賞を受賞。
土井敏邦(どい・としくに):1953年生まれ。ジャーナリスト。中東情勢などを中心に取材。1985年よりパレスチナ・イスラエルの問題にかかわり、現地での滞在を続けてきた。映像作品に『沈黙を破る』(2009年)、『飯舘村』(2013年)など。著書に『占領と民衆―パレスチナ』(晩聲社)、『沈黙を破る―元イスラエル軍将兵が語る"占領"』(岩波書店)などがある。