◆包囲された多数の住民がいまも山中に・・・
8月3日、シリア国境に近い、イラク北部のシンジャルが「イスラム国」に制圧された。住民のほとんどはクルド人で、ヤズディ教徒だ。 このため一神教のイスラム過激勢力から攻撃対象になってきた。逃げ場のないおよそ数百の家族は、現在、近隣の山々に隠れている。日本時間8月4日夜、携帯 電話での取材に応じた男性は「山には木や水もほとんどなく、すぐにイスラム民兵に見つかるだろう。ここで死ぬのを待つだけなのか」と泣きながら訴えた。 【玉本英子】
シンジャル近郊ジャジーラ村のケマル・ムラット・カリルさん(45歳)は、現在、シンジャル山に、家族27人とともに身を隠している。
「2日の夜に突然、銃声が響き、戦闘が始まった。町を警護してきたクルド民兵ペシュメルガが車で逃げるのを見た。『イスラム国』の攻撃を恐れ、家族とともに車で家を離れた。路上で何十人もの死体を見た」と話す。
イラク北部ニナワ県に位置するシンジャルはクルド自治区ではないものの、クルド住民が多く、これまで自治区政府が治安部隊を派遣して町を警備してい た。「イスラム国」は6月に北部の都市モスルを制圧して以降、周辺地域に支配を広げ、キリスト教徒やイスラム教シーア派を攻撃対象にし、殺戮や宗教施設の 破壊が横行している。
次の日、シンジャルが「イスラム国」に包囲された際、住民たちは隣のクルド自治区へ脱出しようとしたものの、幹線道路はすべて「イスラム国」の兵士 に制圧され、付近の山々に歩いて逃げるしかなかったという。山の周りには土漠地帯が広がり、孤立した住民には救援も届いていない。
ケマルさんは「昨晩『イスラム国』の民兵数人が山に入ってきて、ヤズディ教徒の女性たちを奪っていくのを見た」ともいう。『イスラム国』の武装兵 は、「ヤズディ教徒はイスラム教に改宗しなければ死ぬことになるだろう」と通告、一部の世帯はイスラム教徒になることに応じ、山を降りたという。
ケマルさんが現在、身を潜めている場所には300人ほどの人びとがいるという。食料も水もなく、女性も多い。赤ん坊の泣き声で発見される可能性もあり、行き場を失った住民のあいだには絶望感が広がっている。
「イスラム教徒にならない者は餓死しろということなのか。水もない状態で、このままでは死を待つばかりだ。どうか、私たちを助けてください」
ケマルさんは電話口で泣きながら、そう話した。
【玉本英子】
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