◆「評議の秘密」をアメリカ大使に漏らした最高裁長官
1959年の4月と11月、マッカーサー駐日アメリカ大使(当時)は田中耕太郎最高裁
長官(当時)と密談をして、最高裁での砂川裁判の審理日程、判決時期、判決内容の見通
しなどを聞き出しました。
田中長官は「本件には優先権が与えられている」とマッカーサー大使に告げ、「米軍駐留は憲法9条違反」とした東京地裁の「伊達判決」(59年3月30日)は「くつがえされるだろう」との見通しを知らせました。
そして、「こうした憲法問題に伊達判事が判決を下すのは誤っていたのだ」という見解を述べました。
田中長官は、裁判官どうしが判決をどのような内容にするのかを話し合う評議の内幕を、マッカーサー大使にあけすけに語ったのでした。
その事実は、日米密約問題に詳しい国際問題研究者の新原昭治氏とジャーナリストの末浪靖司氏が、アメリカ国立公文書館で発見した、1959年当時の駐日アメリカ大使館からアメリカ国務省への秘密電報・秘密書簡に記されていました。
しかし、こうした田中長官の言動は、裁判官が厳守しなければならない「評議の秘密」を漏らす行為です。「評議の秘密」を定めた裁判所法に違反しています。
米軍駐留が合憲か違憲かをめぐる裁判の評議の内幕を、駐日アメリカ大使に最高裁長官が密談の席で漏らしたことは、憲法に定められた司法の独立性が侵されたことにほかなりません。
このように司法の独立性を侵した田中長官が裁判長だった砂川裁判最高裁法廷は、憲法が保障する公平な裁判所ではなかったのです。