◆特別養護老人ホームの入居も厳しく
今回の法律で、介護保険制度はどのように変わっていくのか。大きく分けて3点ある。
一つ目は、介護の必要度が比較的軽い「要支援1,2」の訪問介護とデイサービスを市町村の地域支援事業に移すこと。
二つ目は、特別養護老人ホーム(特養)の新規入居者を原則として要介護3以上に限定すること。
現在、特養は全国に7000施設あり、定員は50万人。要介護4、5の人でも入居できず、在宅で待つ人が6万7000人もいると言われている。一見、理にかなった方針と言えそうだが、坂口さんはこう批判する。
「比較的軽い要介護者にも認知症の重い人がいます。要介護4,5の人のほとんどが寝たきりで、要介護2の人の方がサービスを必要とするケースもあるのです。単純に要介護1,2をはじき出せばすむという話ではない」
要介護2の母親と暮らしている三谷さんも、「家族で介護できなくなったとき、特養は最後の砦。要介護2は切り捨てられると、どこに頼めばいいのか」と不安を隠せない。
三つ目は、一定の収入がある利用者の自己負担割合を1割から2割に引き上げること。 年金年収280万円以上が対象で、来年8月からの実施する予定。
坂口さんは「この層は5人に1人にあたり、年収280万円という線引きは低すぎる。週2回利用していたデイサービスを1回にするなど、手控える高齢者も増えるのでは」と心配している。
現在、介護認定を受けても介護サービスを利用しない人は100万人いると言われている。負担増でさらに多くの人がサービスの利用を諦めるのではないか。
そうなればどうなるのか。「症状に応じた支援を受けられなくなると体調が悪化し、症状が重くなって、かえって介護費用が膨らむ恐れも出てくるのです」と坂口さんは指摘する。
医療・介護法の審議で、田村厚生労働大臣が野党の批判に対して、「このままでは介護保険は回らなくなる。今のままでいいのか」と開き直る場面もあった。だが、思い出してもらいたい。この4月からの消費税増税は社会保障制度の安定が目的だったのではないのか。
負担だけが増えるのでは不安も募るばかり。「壊憲」のターゲットは9条だけではない。13条の幸福追求権、25条の生存権すら、脅かされている。
【矢野 宏 新聞うずみ火】