この国の介護が大きく変えられる。介護保険などを見直す「地域医療・介護推進法案」が6月18日、参議院で自民党、公明党の賛成多数で可 決、成立した。介護の必要度によって特別養護老人ホームへの入居者が制限され、一定の年金年収があれば自己負担割合が倍になるなど、サービスの削減と負担 増のオンパレード。ここでも「壊憲」暴走が止まらない。(矢野 宏 新聞うずみ火)
◆介護保険制度~利用者や家族を切り捨てる方向へ
本誌で「100年の歌びと」を連載しているジャーナリストの三谷俊之さん(66)がこの春、大阪市北区の事務所を閉じた。原稿の執筆などは自宅で続けながら、認知症の母親(89)の介護にも時間を充てねばならなくなったからだ。
母が認知症を発症して2,3年になる。進行性のアルツハイマー型認知症と脳委縮との混合型という診断だったという。
「少しずつ物忘れが増え、『お金がない。盗まれた』と言い始め、幻聴が聞こえるようで『殺される』とか、『お父さんを今から助けに行かなあかん』と言うのです。父は7年前に死んでいるのですが、わからないみたいですね」
徘徊も始まった。一人で出て行こうとするので呼び止め、どこへ行くのか尋ねると、「福井へ帰る」という思いがけない言葉が返ってきた。
「大阪に来て40年になるというのに、実家の福井の住所は覚えているのです。自分の名前や住所はわからないのに不思議ですね」
介護保険の認定は「要介護2」。週3回のデイサービスなどを利用し、介護保険の自己負担額は月5万円ほど。三谷さん夫妻がそれぞれに仕事で家に帰れない日もあり、月に4,5回、施設にあずけると計10万円近くになる。
何よりもこれから認知症の症状は進んでいく。
「どこに救いを求めればいいのか。介護保険が利用者や家族を切り捨てる方向へ進むと、かなりきつくなります」
介護保険制度がスタートしたのは2000年。受給者を「要支援1,2」「要介護1~5」の7区分に分け、各区分に応じた介護サービスを提供する。
「家族だけでなく、社会全体で介護を支える」という理念だったが、高齢化の進行で3.2兆円だった介護費用も13年度には8.7兆円にまで増えた。団塊の世代が75歳以上になる25年には20兆円を超える見通しで、国は経費削減のため、この理念を捨てた。
次のページ...