中国で官僚や共産党員のみだらな行為の写真や映像が相次いで暴露されている。そうした写真や映像を指す「不雅」(=見苦しいという意味)という 言葉を新聞やネットで目にしない日はほとんどないぐらいだ。いったい何が起きているのか。3回シリーズで伝える中国官僚の腐敗の実態。(アイアジア/宮崎紀秀)
●ネットをきっかけに逮捕される共産党幹部
2012年11月。ある男性が性行為に及んでいる様子を隠し撮りした映像がインターネットに流れた。男性は、北京や上海と並ぶ直轄市・重慶市の、人口73 万人を抱 える北碚区で共産党のトップを務めていた雷政富書記(当時)。相手は、ある企業家があてがったとされる女性だった。この映像をきっかけに紀律検査委員会が 調査に乗り出し、雷元書記は収賄の疑いで立件された。
それから半年ほど過ぎた去年(2013年)6月28日。私は、早朝から重慶市の第一中級人民法院の前にいた。日本の地方裁判所にあたる場所だ。雷元 書記の初公判の取材のためだ。ポルノばりの映像が暴露された事件だけあって中国での関心は高く、法廷に入る被告の姿をとらえようと一眼レフを手にしたカメ ラマンたちが集まっていた。
重慶は、暑い気候から中国の「四大かまど」と称される都市の一つ。そのあだ名の通り、気温は朝からじりじりと上がる。朝の静けさが喧噪に変わる頃には、集まった取材陣は汗をぬぐいながら人民法院のガラス張りの建物の周囲をうろつくこととなった。
雷元書記を乗せた車が巨大な裁判所のどこに到着するか分からず、「情報はあるか」と隣の中国人記者に声をかける。彼も「何も分からない」と首を振った。誰もはっきりしたことは分からないようだった。
午前8時40分過ぎ。短くサイレンを鳴らした警察車両が突然、裁判所の角に現れた。私は周囲にいた数人のカメラマンと猛ダッシュをかけるが、時すでに遅 し。 車は裁判所の裏口に回り込んでしまい誰も追いつくことはできなかった。切れ切れの息で地団駄を踏む私たちを見て、警備員が「撮れなかったのか?」と薄ら笑 いを浮かべた。
雷元書記は我々メディアの前に姿を現すことはなく、裏口から法廷に入ってしまった。しかし、彼の姿はほどなく全中国国民に曝されることとなる。国営の中国中央テレビなどが、法廷内の様子を報じたからだ。
雷元書記は300万元(約5100万円)以上の収賄の罪で、懲役13年の判決を受けた。頭一つ大きい司法警察官2人に挟まれ、肩を落として被告人席に立つ雷元書記は、好色で貪欲な腐敗官僚として国民に記憶されることになった。
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