◆ヤズディ教徒の女性拉致は数百人超か 夫ら男性は不明のまま
8月上旬、武装組織イスラム国はイラク北西部、ニナワ県シンジャルを制圧した。この地域の住民のほとんどはクルド系で、少数宗教のヤ ズディ(ヤジディ)教徒だ。イスラム過激派から「邪教」とされてきた彼らは、迫害と殺戮を恐れシンジャルから脱出しようとするが包囲され、数万が山に逃げ 込んだ。飢えと暑さで命を落とす住民が相次ぎ、殺戮から住民を保護するとして、米軍はイスラム国軍事拠点に限定空爆するに至った。イスラム国はヤズディ教 徒の住民にイスラムへの改宗を迫り、多数の女性を拉致していった。現地では何が起きていたのか。殺戮と空爆の中、脱出してきたばかりの二人の女性に話を聞 いた。(イラク北部ザホー・玉本英子)
◆「奴隷」として売られ、シリア、イラクのイスラム国支配地域を転々と
シンジャルの町を制圧したイスラム国は、イスラム教への改宗を拒否したヤズディ教徒を殺害する一方、イスラム教に改宗すれば、手厚く保護すると布告した。だが連行されたまま行方不明になった住民も多い。
私は、イスラム国の支配地域から一週間前に脱出してきたばかりのヤズディ教徒の姉妹に話を聞くことができた。現在はイラク北部のクルディスタン地域 に避難している。彼女たちによると、数百人を超える女性が拉致され、そのほとんどは今もシリアやイラクのイスラム国支配地域で拘束され、イスラム国の戦闘 員や支持者らに妻や奴隷として売られていったという。
主婦だったマハヤさん(30)は、建築作業員をする夫、5人の子どもとシンジャル近郊の村で暮らしていた。8月3日の昼、突然イスラム国がなだれ込 んで来た。村にやってきた戦闘員は「家に白旗を掲げれば手荒なことはしない」と住民に告げた。取り囲まれて逃げ場もない住人の多くが村に留まることを選択 したという。翌日、戦闘員たちは村人たちを男と女に分けた。夫や男たちの行方は分からない。マハヤさんは5人の子ども、そして妹のブシュラさん(24)と その子ども共に、ミニバス数台に分乗させられた。村の女性200人ほどが連行されて行ったのは、隣国シリアのハサカ県の学校の校舎。イスラム国の武装部隊 の兵舎として使われていた。その場所にいた戦闘員にイラク人はいなかった。
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