◆迫る空爆と脱出
イスラム国の戦闘拠点に対し、イラク政府軍と米軍は空爆を始め、作戦は1か月に及んでいた。9月6日の夜、姉妹が監禁されていた村のそばで大きな空爆があった。近くに迫った空爆は何度も地面を揺らした。
「ここも爆撃されるのではと、女性たちはみんな恐怖に脅えた」
とブシュラさんは言う。
空爆が続く中、戦闘員たちが一斉に持ち場を離れた。建物を放棄して逃げ出したのだと思い、姉妹は同じ部屋にいた女性たち8人と、その子どもたちを連 れて脱出を決意。暗闇のなか方向もわからず、夜空の月をたよりに北東を目指した。その方角に安全なクルディスタン地域があるからだ。脱出行は数日におよん だ。昼は草むらに身を隠し、夜中に少しずつ移動した。途中、羊飼いの男性に出会う。彼は心を痛め、逃げ道を教えてくれた。女性たちは羊飼いにもらったパン を分け合い、飢えをしのいだ。
姉妹は隠していた携帯電話で家族と連絡を取り、クルディスタン地域にたどり着いた。そこでようやく避難していた家族と再会する。だが、マハヤさんの夫と14歳の長女の行方は今もわからず、親族の中にいた二十歳前の若い女性6人も拉致されたままだ。
ヤズディ教徒はフセイン政権下で弾圧され、こんどはイスラム武装組織の標的となっている。
「どうして今の時代に、こんなことが。神を信仰する彼らがなぜ人々を次々と殺し、非道を繰り返しているのでしょうか?世界は私たちを見捨てたのでしょうか?」
マハヤさんは、そう言ってうなだれ、目を覆った。
姉妹は今、ザホーの町で、建設途中で放置された空き家に身を寄せる。コンクリートブロックがむき出しで窓ガラスもなく、屋根で雨が凌げるだけだ。何 もかも奪われ、身ひとつで逃げてきたため、持ち物は何もない。地元政府や支援組織もすべての状況を把握できておらず、食べ物などの支援もほとんど得られて いない。
マハヤさんが拘束中に産んだ女児をイスラム国の戦闘員はアイシャとイスラム名をつけるよう命じた。脱出後、マハヤさんはクルド語でレビーン(脱出)と名づけた。
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