R:作業員の方の安全と健康は大事だが、誰かが作業をしなければならない、という大変なジレンマにぶつかってしまいますね。

小出:そうですね。作業員の方々は、1年間に20ミリシーベルトまでで抑えなさいという通常時の被ばく限度があ ります。そして、今は緊急事態だから、この事故を収束させる作業のために100ミリシーベルトまでは許すという法律の体系で作業をしています。そうする と、1時間に25シーベルトつまり2万5千ミリシーベルトですから、通常の1年間20ミリシーベルトという被ばく限度に達するにはわずか1000分の1時 間、つまり、3秒という短い時間で、法律で定められている値を超えてしまいます。

ですから、基本的にはもう作業ができないわけです。なんとか距離、時間、遮蔽ということでやろうとするとは思いますけれど、次々と作業員の人たちの 被曝が限度に達してしまうでしょう。どうするのだろう、作業員の人たちを本当に手配できるのだろうか、手配できるできないの前に、作業員の人たちの健康が どうなってしまうのだろうかと大変心配です。

R:素人考えでお聞きしますが、ここはもう放置してしまって、もっと広く全体を遮蔽するというのは無理なのでしょうか。

小出:それはありうると思います。例えば、1986年のチェルノブイリ原子力発電所の事故の場合には、原子炉建 屋を丸ごと石棺というコンクリートの構造物で覆ってしまいました。福島第一原子力発電所の場合には、1号機から4号機までみんな壊れてしまっていますの で、熔け落ちてどこにあるかもわからない炉心を取り出すというような作業は一切しないで、1号機から4号機まで全部石棺で覆うという選択肢もありうるだろ うと私は思います。

ただしその前に、使用済み燃料プールの底に沈んでいる燃料だけは何としても取り出したい、と東京電力も思っているはずですし、私もそうして欲しいと思いますので、その作業だけはやはりまずはやらなければいけないと思います。

そういう作業をやるためにも、屋外、あるいは屋内にある、猛烈な被曝を与えてしまう場所というものを何とかしないと、作業すらできないということになりますので、そうした場所の放射性物質の除去作業はやらざるを得ないかもしれません。
課題山積の福島第一原発の事故処理。その中で最も懸念されているのは作業員の確保の問題である。福島第一原発のことを熟知している作業員、重機の熟練作業 員などは、そう簡単に育成できるものではない。作業を肩代わりするロボット開発も決して順調ではない。作業員の被曝を最小限に留めながら事故処理を進めて いくのは容易なことではない。

 

「小出裕章さんに聞く 原発問題」まとめ

 

★新着記事