原子力利用の危険性について研究し、警鐘を鳴らした京都大学原子炉実験所(大阪府熊取町)の良心的研究者「熊取6人衆」を招いた、新聞うずみ火連続講座が 8月2日、大阪市此花区のクレオ大阪西で始まった。先陣を切ったのは、高速増殖炉「もんじゅ」研究の第一人者、小林圭二さん。「最近の原子力政策をめぐっ て」と題して、もんじゅから集団的自衛権まで語ってもらった。(矢野宏/新聞うずみ火)
◇凍土壁建設は根本的解決になっていない
小林さんは1939年生まれ。京大工学部原子核工学科を卒業後、京大原子炉実験所の助手となり、原子力発電の実用化を推進する立場で研究していた が、危険性を訴えるようになる。もんじゅ設置許可の無効確認を求めた行政訴訟で原告側の証人として法廷で証言し、2003年の名古屋高裁で原告側住民の勝 訴をもたらす。その年、講師のまま原子炉実験所を定年退職。12年には関西電力大飯原発再稼働の反対抗議でゲート前に住民たちと一緒に座り込むなど、反原 発運動を支えてきた。
小林さんはまず、「戦争する国」に道を開く集団的自衛権行使容認に触れ、「心底、怒っています」と切り出した。
「憲法を作るのも変えるのも民衆です。あくまで民衆がやることを権力者が勝手にやってはいけない。閣議決定した集団的自衛権をこれから法律で固めていくのでしょうが、憲法9条の骨抜き化であり、とんでもないことです」
続いて、東京電力福島第一原発の現状について、「依然として放射能レベルが高すぎて近づけず、現状の調査もできていません。安倍首相は『アンダーコントロール』と言いましたが、不安定で何が起こるかわからない状態です」と説明した。
特に、敷地の下では、熔けた核燃料を冷ますための水が高いレベルで汚染されており、それが地下水と混ざり合って1日400トンもの汚染水を生み出し ている。貯蔵タンクからも汚染水が漏れており、海への垂れ流しも止まらない。小林さんは、「3、4年後には高濃度汚染水がアメリカの西海岸に到達すると予 言している人もいる」と指摘した。
東電は、地下水の流入を防ぐために「凍土遮水壁」を作る計画を進めている。事故を起こした1号機から4号機の周囲1.5キロを深さ30メートルの凍 土で囲み、外から流入する地下水が原子炉側の汚染水と混ざるのを防ぐ凍土壁を作るという。小林さんは「直径1メートルのパイプを埋め、マイナス30度の液 体を循環させて土を凍らせて水を止めるというのですが、停電が起きると流れが止まります。効果は未知数」という。
特に、トレンチ(配管などが通る地下トンネル)の中の高いレベルの汚染水を取り除かないと、線量が高くて労働者が被曝してしまう。そのため、海側のトレンチにたまった汚染水対策で、タービン建屋との接合部の水を全面凍結させる方策を打ち出した。
「氷の壁を作り、建屋からの汚染水流入を止めた上でトレンチ内の汚染水を抜き取る計画でしたが、水がさっぱり凍らない。ドライアイスや氷まで放り込んでいますが、うまくいっていません」
小林さんは「汚染水の処理は400億円の税金をかけるそうですが、二桁違う。『兆』の投資をしないと汚染水対策は難しい。しかも、東電だけでは無理です。すべてが後追いで、その場しのぎ。根本的対策になっていません」と言い切った。(つづく)
【矢野 宏】