「川内原発と同型炉なら審査の効率化は可能じゃないですか」と発言したのは、安倍内閣の菅義偉官房長官。川内原発が原子力規制委員会の適合審査を通過した ことで、同原発の加圧水型原子炉と同型の原子炉を使用している西日本(島根原発を省く)のほとんどの原発の審査を簡略化し、それらの再稼働を早められるの ではないかとの考えだ。果たしてこのような審査の簡略化は可能なのだろうか。京都大学原子炉実験所・助教の小出裕章さんに質問した。(ラジオフォーラム)
◆事故を起こした沸騰水型原子炉
ラジオフォーラム(以下R):菅官房長官が原子力規制委員会との話の中で、川内原発同型の原発は審査の簡略化が可能じゃないかと発言したことについてお伺いします。これはどういうことなのでしょうか。
小出:彼らとしては、なんとしても少しでも早く再稼働をさせたい、審査に関しては出来る限り速やかに完了させたいと思っているわけです。
日本では、2種類の原子力発電所を使ってきました。福島第一原子力発電所で使っていたのは、「沸騰水型原子炉(BWR)」と言います。一方、関西電 力等で使われてきたものを、「加圧水型原子炉(PWR)」と私たちは呼んできました。基本的には同じものなのですけれども、仕組みが違うということもあ り、2種類のものを使ってきました。
福島で事故を起こしてしまった沸騰水型の方は、容易に安全だとは言えないだろうと、恐らく菅官房長官たちも考えているのだと思います。ですから、も う一方の加圧水型(PWR)という原子炉の方を、できる限り早く再稼働させたいと思っているはずです。「川内原子力発電所を安全だと認めたのであれば、他 だってみんな安全だと認めろ」という指示を菅官房長官が発信したのだと思います。
◆加圧水型にも事故はつきもの
R:沸騰水型というのは、水を沸騰させて、その蒸気でタービンを回して発電するのですね。
小出:非常に単純な原子炉なのです。
R:小出さんはいつも、湯わかしと同じ原理だと言っていますよね。では、加圧水型というのは何が違うのですか。
小出:沸騰水型は文字通り、水を沸騰させて蒸気を出して、その蒸気でタービンを回すのです。原子力発電所の場合 には、その沸騰した水がもうすでに放射能で汚れてしまっているわけです。その蒸気でタービンを回すので、タービンも放射能で汚れてしまっています。そうな れば、タービンは巨大な構造物ですので、管理をすることが大変になるという問題がありました。
ですから、もう一方の加圧水型では、放射能で汚れた水をタービンに持っていかなくても済むようになっています。一次系と私たちは呼んでいますけれど も、放射能で汚れた水は一次系というところで閉じ込めて、途中で蒸気発生器という熱交換器を使って、二次系に熱を渡して、二次系を沸騰させるというシステ ムを作ったのです。つまり、冷却系がもう一つ増えてしまったことで、システムとしては沸騰水型より複雑なものとなっています。
R:間にワンクッション入ったということですよね。そのことで、より安全だと言えるのでしょうか。
小出:言えません。もちろん、良いこともあるし悪いこともあるわけで、タービンという巨大な構造物が放射能で汚 れないという点では、利点があったわけです。けれども、一次系から二次系に熱を渡すためには、蒸気発生器という巨大な装置をそこに置かなければいけませ ん。蒸気発生器というのは、一次側から二次側に熱を渡すべきものですから、なるべく熱を渡しやすい構造、つまり金属のパイプなのですけれども、パイプの厚 さをなるべく薄くして、効率よく熱を渡せるようにしています。
その一方で、薄くしてしまうと、今度はそのパイプが破損する可能性が高くなり、一次系の放射能が二次系に漏れてしまうということになるわけです。
ですから、熱をよく伝え、放射能は送らないという相反する目的の両方を担わなければいけないということで、蒸気発生器というのは大変難しい設計にな りました。なんとかそれを上手くやりたいと思ってきたわけですけれども、世界中の加圧水型原子炉では、たびたび蒸気発生器が壊れてしまいました。日本で も、しきりに事故を起こしましたし、世界的にも事故を起こしました。
例えば、米国の西海岸にサンオノフレという加圧水型の原子炉がありましたが、その原子炉の蒸気発生器は日本の三菱重工が造ったものです。それがあま りにも欠陥だということで、サンオノフレは閉鎖になってしまい、三菱重工は多額の賠償金を請求されることにもなっているのです。