エイブラムソンはコンサルタントを雇って彼女自身のマネジメントスタイルを変えようと試みていた。しかし関係者によると、サルツバーガーは彼女の更迭を今 月中に決め、バケットに昇格を伝えたという。この関係者は、問題の性質上、情報源として名前を出すことはできないとしている。

タイムズ社とエイブラムソンとの合意によって、彼女の解雇については双方とも語ろうとしない。エイブラムソンは電子メールでのコメントの求めに応じていない。

バケットはタイムズ紙の編集局長に就任する最初のアフリカ系となる。エイブラムソンも、初めてのタイムズ紙の報道の全権を率いた女性ということで歴史を 作った。エイブラムソンの3年に満たない期間での更迭は、編集局内の女性職員に少なからず失望を与えている。そして社内やマスコミ業界全体に、女性の幹部 登用について逆風となるかのように受け取られかねない。

タイムズ紙のジャーナリストでエイブラムソンの友人でもあるジェーン・メイヤー(Jane Mayer)は、「ジル(エイブラムソン)が偉大なるジャーナリズムというものについて、またタイムズ紙という新聞について強い情熱を持っていることを 知っている。ジルはとてもよく働くし、最も高いレベルを自分も含めて全てのジャーナリストに求める。ジルは力強く恐れを知らぬリーダーだ。みながそれを好 むとは思わないが、それがジルをこの時代で最も優秀なジャーナリストにしていることは間違いない」と話した。

この混乱はタイムズ社にとって重要な年に起きた。タイムズ社は傘下のボストン・グローブ紙やアバウトドットコムなどを次々に売却し、成長のための新 たな戦略を打ち立てていた最中だ。また最近は、アイフォンを対象とした新たな事業であるニューヨーク・タイムズ・ナウを始め、料理や様々な意見を紹介する 商品の開発を手掛けようとしていた。

57歳のバケットは編集局長への就任にあたって、「編集局の意見をよく聴き、議論に関わり、けしてそこから逃げない。常に編集局を歩き回る」と語った。彼は、「それが唯一、私が知る編集責任者の手法だからだ」と語った。

バケットは、編集局員を前にエイブラムソンを称え、彼女は「偉大な大志の価値」を教えてくれたと語った。そして、ロサンゼルス・タイムズ時代に仕え たジョン・キャロル(John Carroll)についても触れ、「偉大なる編集責任者は人間的でもあることを教えてくれた」と語った。

バケットとサルツバーガーはともにエイブラムソンの取り組みを称えた。しかし、編集局長の任期は通常は65歳まであり、彼女の任期はそれよりも5年 短いものだった。エイブラムソンが編集局長を務めた期間に、タイムズは8個のピューリッツァー賞を受賞。彼女自身も新聞とウエブの双方で称賛を得た。彼女 は編集局長に就任する前、ワシントン支局長を務めた。その前は、ウォールストリート・ジャーナル紙の調査報道記者だった。彼女は、メイヤーと共著で最高裁 判事のクラレンス・トーマスの就任前の議会での公聴会についてまとめた「ストレンジ・ジャスティス(Strange Justice)」を出している。

しかし編集局のトップとしては、局内での不協和音を招いたことや、局内のいくつのかの重要な部署についての人事について批判を受けていた。彼女が登用した人物は全て、任期を全うしなかった。

サルツバーガーが注意深く見る中で、エイブラムソンとバケットとの確執は悪化の一途をたどった。ある記事をめぐって、バケットが編集局内の壁を怒り にまかせて叩く姿が目撃されている。バケットはエイブラムソンが編集局長に就任する際に、編集局長の候補の1人だった。関係者の話によると、バケットはエ イブラムソンの下で、不満を募らせていったという。

バケットは1990年に市内版の担当としてタイムズ紙の記者を始めた。彼は調査報道も行い、1995年に全国版のデスクとなった。タイムズ社に入る 前は、タイムズ・ピカユーン紙とシカゴ・トリビューン紙で10年近く記者をやり、1988年に調査報道でピューリッツァー賞を受賞している。そしてロサン ゼルス・タイムズでデスクと編集局次長を務めた後、2007年に再びタイムズ社に戻り、ワシントン支局長と編集局次長補佐を務めた。

エイブラムソンは、「私はタイムズでの仕事を愛していた」とのコメントを出した。エイブラムソンは、2007年にはトラックにはねられるという事故 を乗り越えており、タフなジャーナリストとして知られる。彼女は、最近になってタイムズのイニシャルの「T」の刺青を彫っている。編集局長に就任すること を、「我が人生最大の栄誉」と呼んでいた。

(2014年5月16日付のニューヨーク・タイムズ 「Times ousts editor after internal tensions」, Reporting was contributed by Leslie Kaufman, Sydney Ember, Jonathan Mahler and Noam Cohen.)

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