◇ミイラ取りがミイラに 甘い取締り
記者:学生にまで広まっているとは深刻ですね。学校や当局で厳しく取り締まりそうなものですが...。
協力者:取締りなんてほとんどありませんよ。学生たちは「一回やろうぜ」などと露骨に話していますね。
記者:それでも「オルム」の売買は違法で、国家の厳しい統制があるはずです。
協力者:15グラムまでの所持だと、労働鍛錬隊(6か月以下の強制労働施設)に送られます。それ以上の量刑については詳しく知りませんが、15グラム以上持っていて捕まったとしても、金持ちたちは保安員(警察)や保衛指導員(秘密警察)に賄賂を渡せば解決ですよ。
記者:「オルム」に手を染める保安員、保衛部員、司法機関員などもいますか?
協力者:多いですよ。彼ら自身が直接買いに行ったりもします。手元にお金が無ければ自転車を担保に預けて「ツケ」で買いますね。このように、取り締まるべき立場の人たちまでがやっているので、「オルム」の摘発は徹底できないんです。
統計資料があるわけではなく、あくまでこの取材協力者が調べた範囲の印象なので、証言には誇張された部分があるかもしれない。だが、北朝鮮で生活してきた脱北者である筆者の経験や、他の証言などから、「オルム」の蔓延は間違いない事実である。
政治経済上の自由が極端に制限される北朝鮮社会において、住民が感じる強いストレスが需要を生み出し、司法警察機関の取締りの甘さと「利ざやの大きい」商売としての魅力が、蔓延を助長しているである。
◇麻薬中毒者は政府に無害? 国の対応に疑問
金正恩政権は、韓国はじめ外国の映像物を「不純録画物」と規定し、その販売や視聴を徹底的に取り締まっている。時に銃殺刑に処すほどだ。それなのに、社会 的にははるかに深刻な現象であるはずの覚醒剤の流行・蔓延を防げない理由は何か。覚醒剤に溺れ、無気力で怠惰な日々を送る住民は、映像を見て「自由な外部 の世界」に興味を持つ人々が増えることに比べれば、その脅威は大したことはないと当局は見なしているのだと筆者は考える。