◆2兆ベクレルを海に放出

R:そして9月8日、東電は今年5月までの10か月間にストロンチウム90、それからセシウム137が2兆ベクレルも港湾に漏れていたと発表しました。これは東電自身の放出管理目標の10倍を超える数値だそうですが......。

小出:はい。皆さん、2兆ベクレルという数字を聞いても、恐らくピンとこられないだろうと思います。いずれにし ても、放射性物質ですので危険なものです。例えば、ストロンチウム90という放射性物質を食べてしまう、あるいは飲んでしまうということをすれば、もちろ ん、その人は被曝をしてしまいます。

普通の一般の人々は、1年間に1ミリシーベルトという被曝を超えてはいけないという法律になっているのですが、一体どれだけストロンチウム90を食 べたり飲んだりしたら、そうなってしまうのかということは計算で出てきます。その計算に従えば、1兆ベクレルのストロンチウム90は、2800万人分の、 1年間にそれ以上摂ってはいけない量ということになります。

R:2800万人といえば、これは日本の人口の4分の1に相当しますね。

小出:そうですね。それから、セシウム137の方はストロンチウム90よりは少し内部被曝の危険度が低いです。そのため、もしセシウム137が1兆ベクレルあるとすれば1300万人分になります。

R:1300万人というと東京都の人口に匹敵しますね。

小出:もしかすると東京都を超えてしまうかもしれません。それで、先日の東京電力の発表だと、ストロンチウム 90が1兆4600億ベクレル、セシウム137の方が6100億ベクレルという数字でしたから、ストロンチウム90の方が約2倍多かったということになっ ています。もしストロンチウム90が本当に1兆4600億ベクレルだとすれば、それは4100万人分の年摂取限度に相当します。

R:ほぼ日本の人口の3分の1近くということですか。

小出:それからセシウムの方は約800万人分です。

R:大阪府の人口ぐらいですね。

小出:いずれにしても両方出ているわけですから、日本人の約半数の年間摂取限度に相当する量ということになるだろうと思います。

R:ちなみに、ストロンチウム90というのは骨に溜まりやすく、白血病などにかかる可能性が高くなり、セシウム137は筋肉に溜まりやすいので、肺がんや胃がんなどの形で影響が出やすいという理解でよろしいでしょうか。

小出:そうです。全身に危険が及ぶと思います。

R:極めて危険な物質が大量に海に放出されてしまったわけですが、建屋のトレンチから直接漏れている可能性もあると言われていますが。

小出:私は当然そうだろうと思います。2011年3月11日に東北地方太平洋沖地震が起き、至る所で散々な被害 を受けているわけです。福島第一原子力発電所の敷地の中でも沢山の機器が壊れたと思います。コンクリート構造物というのはもともと割れていますし、その上 巨大な地震に襲われれば当然、更に割れやすくなると思います。

そこら中でひび割れていたのですから、事故直後にトレンチがむき出しになっている岸壁の部分から水がジャージャーと流れていたのも確認されました。 何カ所もそういう所があったわけですけれども、それは、目で見えている所で割れていたから見えただけであって。地下では見えないままどんどん漏れていたの です、当時から。

R:小出さんが以前から主張されていたように、今からでもタンカーか何かに積みかえた方がいいのではないでしょうか。このまま放っておいたら外洋に出ていってしまいますし。

小出:私は必ずやるべきだと思います。このままではもう手の打ちようがありません。私はタンカーに移すべきだと、2011年3月の段階から発言をしてきました。もうすでに3年半も過ぎてしまいましたけれども、あまりに遅いとは言え、やっぱりやるべきだと思います。

R:今からでも遅くないということですね。

小出:遅いのですけれども、やった方がいいと思います。
2013年8月に原子力規制委員会は、福島第一原子力発電所内から漏れ出た放射能汚染水の問題を、トラブルの深刻さを示すINES(国際原子力事故評価尺 度)のレベル3(重大な異常事象)とした。この問題は、完全に解決していないどころか、解決の糸口すら見えていない現在進行形の非常に深刻な問題であるこ とを、私たちは思い出さなければならない。

 

「小出裕章さんに聞く 原発問題」まとめ

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