2014年9月27日、御嶽山が突如噴火し、多くの登山客が犠牲となった。もし噴火を予知できていたら、ほとんどの人が登山を思い留まっていただろう。噴 火の予知の難しさがおおやけになると、にわかに川内原発再稼動への不安が取り沙汰されるようになった。火山噴火による原発への影響について、京都大学原子 炉実験所・助教の小出裕章さんに聞いた。(ラジオフォーラム)

川内原発(鹿児島県)では、原発の規制基準である半径160キロ圏内に、過去に大噴火を起こした巨大カルデラが5つも存在する。規制委は予兆の観測に努めるとしているが、火山学者の見解では噴火の予知は不可能(撮影:鈴木祐太)
川内原発(鹿児島県)では、原発の規制基準である半径160キロ圏内に、過去に大噴火を起こした巨大カルデラが5つも存在する。規制委は予兆の観測に努めるとしているが、火山学者の見解では噴火の予知は不可能(撮影:鈴木祐太)

 

◆九州は火山危険地帯

ラジオフォーラム(以下R):御嶽山が大きな予兆もなく水蒸気噴火したことで、火山の噴火リスクというものが改めて注目されています。まず、今回の御嶽山の噴火を、小出さんはどのようにニュースでご覧になりましたか。

小出:まずは、驚いたというのが正直な感想です。御嶽山がまさか爆発するとは私自身も思っていませんでしたし、多くの人たちもあの山が爆発するとは思っていなかったでしょう。

火山が爆発するという危険は5段階に分けられていますが、御嶽山の場合にはレベル1ということで、ほとんど危険はないと専門家も思っていたわけです。それが突然に爆発してしまったわけですから、やはり自然というのは人知を超えているのだなと改めて思いました。

R:そういう意味では、火山のすぐ近くにある鹿児島の川内原発などは、「どうしてこんなところに造ってしまったのだろう」とつい思ってしまいますが。

小出:そう言ってしまいますと、たぶん日本中どこも危ないということになってしまうだろうと思います。ただ、こ の九州というのは、例えば阿蘇山ですが、内輪山と外輪山というのがあり、外輪山の中は全て爆発で吹き飛んでしまった跡なわけです。桜島がある鹿児島湾は、 これも火山が爆発して全部吹き飛んだが故にあそこが海になっているのです。九州には北から阿蘇、加久藤、姶良、阿多、鬼界という巨大なカルデラが5つも並 んでいるという所なのですね。

そういう意味で言えば、九州というのは火山の爆発が一番危険な場所でもあるわけですから、そういう所に原子力発電所を造るということは、できればはじめから避けておくべきだったと私は思います。

 

◆原発近くで噴火が起こったら......

R:実際に、火山が爆発した時に、原子力発電所には様々な危険、あるいは事故などが起きると考えられますが、順番を追っていくとまずどういうことを考えておかないといけませんか。

小出:まず、本当に巨大な爆発が起きるというようなことになれば、火砕流というものが起きて、猛烈に高温な岩 石・灰等を含んだものがその場所から流れ下ってくるということになります。そのような事になると、原子力発電所のあちこちで恐らく様々な障害が出るでしょ う。もし、燃料関係が損傷するようなことになれば大量の放射性物質が出てきてしまうということになると思います。それが一番、まずは心配することです。

次は、今回の御嶽山もそうでしたけれども、火砕流が起きないぐらいの噴火の場合です。この場合でも、火山灰が何百キロという所まで飛んでくるという ことになります。原子力発電所というのは、もともと綺麗な空気を循環させなければいけないということで、空調等が大変複雑に絡んでいます。それが火山灰に よってフィルターの目詰まりなどを含めて、深刻な障害を起こすだろうと私は思いますし、電気系統もたぶん様々な障害を受けてしまうだろうと思います。

R:地震列島であり火山大国でもある日本。この川内原発だけでなく、他にも大変危険な場所に原子力発電所がいくつもありますよね。

小出:はい。たくさんあります。北海道の泊原発もそうですし、九州では玄海原発もそうですし、四国の伊方原子力発電所も阿蘇山のすぐ近くですので影響を受けるだろうと思います。

 

◆火山は予知できないという前提こそが科学的

R:原子力規制委員会の田中俊一委員長は、今回の御嶽山の水蒸気噴火と川内原発で起こりうる巨大カルデラ噴火と は現象が違う、一緒に議論するのは非科学的だ、というふうに述べ、規制委の川内原発再稼働についての審査は妥当であるかのように記者会見で答えています。 この「一緒に議論するのは非科学的だ」ということについて、科学者の小出さんはどうお考えですか。

小出:私は火山学者ではありませんので、あまり正確にコメントできるかどうか分かりませんが、ただ、御嶽山で起 きた水蒸気の噴火と、川内原発で危惧されている、火砕流が生じるような噴火とは、もちろん規模が違うわけですから、一緒に議論するのはある意味妥当ではな いのかもしれません。でも、一番大切な事は、今回の御嶽山の噴火すら全く予知できないままだったということだと私は思います。

原子力規制委員会も九州電力も何か噴火の予知ができるかのようなことを言っていて、予知ができれば対策が取れると言ってきたわけです。ところが、噴 火の予知ができないわけですから、もともと対策のとりようもないし、原子力規制委員会が川内原発の安全性にお墨付きを出したことそれ自体が私は非科学的だ と思います。

R:つまり、単純に比較は出来ないとしても、根底にある火山の噴火については今の科学技術ではなかなか予知できないということですね。有珠山の爆発のように、ある程度事前に分かったケースももちろんあったりもしますが。

小出:非常に稀なケースですね。

R:そうですね、ですから御嶽山の例で明らかになったのは、火山というのは突然爆発するものなのだという前提に立つことが科学的だ、という理解でよろしいですか。

小出:はい。ほとんどの火山学者の方々がそう言っているのですね。火山の噴火の予知は今の力ではできないと。

 

「小出裕章さんに聞く 原発問題」まとめ

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