水面下で行われた「謎の日本人」調査
平壌で10月29日まで行われていた拉致問題など日本人調査に関する日朝協議は、北朝鮮側が調査内容を伝えることがなく、具体的な進展はなかったよ うである。それでは、北朝鮮は、日本人調査を何もしてこなかったのかというそうではない。6月から水面下で在留日本人の消息確認を行っていたことがアジア プレスの調査で分かった。さらに調査は、正体不明の「謎の日本人」にも及んでいた。この「謎の日本人」とは誰なのか? 北朝鮮側の対日戦略とは何なのか? 北朝鮮国内で敢行した極秘取材から報告する。
◇北朝鮮人チームとの取材
筆者は10余年前から北朝鮮内部に住む人たちとチームを組んで取材をしている。いわば、北朝鮮内部の人々との協働作業である。このような手法を取るように なったのは、外国人ジャーナリストには、いくら努力をしても、お金を積んでも越えられない、あまりに高い壁が北朝鮮にあることを痛感してきたからだ。
よく知られていることだが、外国人は普通の庶民と制約なしに本音を語り合うこともできないし、案内員(という名の監視)抜きに一日たりとも自由に歩 き回ることは叶わない。北朝鮮問題の核心に迫り正体を掴むためには、北朝鮮に住む人々とチームを組んで取材していくしか方法はない。それが三度の訪朝含め 取材を始めて20年になる私なりの結論である。
5月29日、拉致被害者だけでなく、すべての在朝日本人を包括的に調査するという旨の日朝合意が電撃的に発表された。ほぼ10年間、膠着してまった く動かなかった拉致問題・日朝協議を、金正恩政権は、今、なぜ動かそうと決めたのか?私は北朝鮮国内の取材協力者たちと連絡を取り合い、日本人調査の実態 について調べてもらうことにした。
6月初旬からの二か月間、彼らは精力的に北朝鮮当局の動きを追った。拉致被害者に関する情報への接近は容易でなかったのだが、北朝鮮当局が全日本人 に調査の範囲を拡大したことの狙いや、「本気度」について、その一端を知ることができた。なお、筆者は北朝鮮内部との連絡は、主に中国キャリアの携帯電話 を密かに投入して行っていることをお断りしておく。
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