◇金正恩氏が直接指示か

今回の措置が無理に執行されたのは、金正恩氏による直々の指示があったからだろうと取材協力者は見ている。その理由は次のように説明した。
「糧政局の幹部は『糧穀収買を大衆化することについての党の方針』という通達を掲げて取り締まりを始めたが、これは、実は金正日時代に出された方針だっ た。国に市場の流通力に対抗する力がなくて、『糧穀販売所」で売買する者が皆無となって有名無実になっていた。それがこの度、再度『党の方針』として指示 が下されたわけだ。北朝鮮で、現在の『党の方針』とは、常識的には金正恩氏の直接の指示を指す」

この取材協力者は、今回の措置は党の政策として執行されている事業なので、地域が限定されたものではなく、全国的に施行されるものと見るべきだと分 析する。実際、アジアプレスでは咸鏡北道のある都市でも、同様の食糧専売制導入が始まっていることを把握している。ただ、平壌市や清津市などの人口の多い 大都市においても、同様の措置が始まっているかについては、現時点で確認が取れていない。

付言すると、北朝鮮では、毎年収穫期の10月頃から食糧の移動を強く取り締まってきた。本来、協同農場から国に納められるべき食糧が、都市の市場に流出するのを防ぐためである。だが、専売制を強引に導入しようとするのはこの10年ほどはなかったことだ。

「米すなわち社会主義」と表現されるように、北朝鮮では主食の供給を握ることが、国家の住民統治の重要な手段であった。カロリー源の供給を配給制で握ることで「食わせてやるから言うことを聞け」という統制が可能だったのである。

当局は「党の方針」、つまり金正恩氏の指示である点を掲げ、強い姿勢で今回の措置を進めている。取材協力者は「従わない人物は『方針』を拒否したと見なされ厳しく処罰されるだろう」という。
次のページへ ...

★新着記事