◇糧穀販売所とは?
「糧穀販売所」とは、人民委員会(行政組織)の糧政局で運営する一種のコメ専売国営商店だ。2002年の「7.1経済管理改革措置」に合わせて設置された。ここで農民から米、小麦粉、大豆などの穀物を一元的に買い取り、住民に販売するとされた。
設置の背景には「苦難の行軍」と呼ばれる90年代の社会混乱があった。全住民に廉価に米やトウモロコシが提供されていた食糧配給制度が崩壊したた め、住民たちは食糧を現金で売買することを始めた。これが全国に市場の流通網の発展を促し、政府の配給制度に代わって住民たちに食糧を供給するシステムと して根付くことになった。
食糧配給制度を住民統制の要としてきた当時の金正日政権は、経済的自立が進むことで、住民統制が弱体化することを懸念。食糧流通を市場から「奪還」することを狙って専売所である「糧穀販売所」を設置したのだった。
だが、「糧穀販売所」の実際の運用は惨憺たるものだった。「糧穀販売所」の穀物強制購入価格が市場よりも安かったため闇での売買が横行、コメの専売導入は一年もたたず破綻してしまった。
◇金正恩政権の農業政策の一環か
今回の動きは、金正恩氏が2012年6月に指示したとされる新経済政策「われわれ式の新しい経済管理体制(6.28措置)」と関連していると見なす ことが可能だろう。在日朝鮮総連の機関紙「朝鮮新報」が今年1月15日付けで掲載した、黄南道載寧(ジェリョン)郡にある「三支江(サムジガン)協同農 場」での成果という記事が、今回の事態を示唆している。
記事に登場する農場員たちは、年間の生産計画を超過した分の余剰作物を市場ではなく「糧穀販売所」に売るとし、その理由を「市場と同様の価格で収買 (買取)してくれるからだ」と述べている。さらに同農場のリ・ヘスク管理委員長は「『糧穀販売所』に売ってこそ、(私たちは)堂々としていられます。国家 の米びつに責任を持つのが農民の本分ですから」
と答えている。この記事は、農民の意思によってコメ専売制が始まることを、予告・宣伝する意図があると言える。
しかし、食糧専売制の強行実施は、挫折する可能性が高いと言わざるを得ない。その理由は、(1)「糧穀販売所」がコメを買い入れる資金が続くとは考 えにくい。(2)若干とはいえ市場価格より安い価格で「糧穀販売所」に納入する制度に、農民も業者もメリットがない。(3)食糧価格は需要と供給の関係に よって上下しているが、国家が国定価格を設定して統制することは不可能。
食糧専売制を成功させるためには、国家に十分な買い取り資金と保有食糧があることが条件となるが、現在の北朝鮮政権にその余裕があるとはとても思えない。金正恩体制の無理な「市場経済への挑戦」は、金正日時代と同様に失敗に終わることになるだろ