◇国境封鎖で退路なく

シリア北部のコバニ(アラブ名アイン・アル・アラブ)では、武装組織イスラム国と、クルド組織・人民防衛隊(YPG)との激しい攻防 戦が続いている。住人のほとんどはクルド人で、イスラム国が町を掌握すれば住民殺戮が始まる、との危機感から多数が避難民となってトルコ国境に押し寄せて いる。イスラム国の包囲下にあるコバニの状況を、地元行政局で町の防衛担当責任者として働くイスメット・ハサン氏(48)が、電話で伝えてきた。
【聞き手:玉本英子】

イスラム国は、シリア政府軍が使用していたロシア製戦車や迫撃砲で町に攻撃を加えている。さらにイラク軍から奪ったアメリカ製のM1ブラムス戦車も投入していると伝えられる。写真は、住宅地に着弾した爆弾。現在市内で戦う人民防衛隊の戦闘員が携帯電話で送ってきたもの。(10月11日撮影)
イスラム国は、シリア政府軍が使用していたロシア製戦車や迫撃砲で町に攻撃を加えている。さらにイラク軍から奪ったアメリカ製のM1ブラムス戦車も投入していると伝えられる。写真は、住宅地に着弾した爆弾。現在市内で戦う人民防衛隊の戦闘員が携帯電話で送ってきたもの。(10月11日撮影)

 

◆食糧は十分ありますか?

イスメット氏:最低限の食糧はなんとかあります。確保は容易ではありませんが、トルコの平和民主党(BDP)から支援食糧が届けられます。(※注:BDP=トルコのクルド系政党) 町の北のトルコ側以外のルートは遮断されているので、物資も入ってきません。

クルド組織、人民防衛隊(YPG)には女性戦闘員も多数参加し、前線に立つ。写真は軍事訓練をおこなうYPG。(2014年1月・シリア・コバニで玉本英子撮影)
クルド組織、人民防衛隊(YPG)には女性戦闘員も多数参加し、前線に立つ。写真は軍事訓練をおこなうYPG。(2014年1月・シリア・コバニで玉本英子撮影)

 

◆人民防衛隊は持ちこたえることができるのでしょうか?

イスメット氏:トルコからクルド人の義勇戦闘員が来るとも聞きましたが、トルコ軍がすべての国境ゲートを封鎖し て以降は外からの応援はありません。このままでは武器も弾薬も尽きるでしょう。米軍の連日の空爆でもイスラム国の攻撃は止みません。先日も防衛隊の女性戦 闘員がイスラム国拠点に対し、自爆攻撃をかけて戦死しました。町が陥落すれば、大量虐殺が間違いなく起きます。人民防衛隊の戦士たちの決意は固いですが、 一般の住民は恐怖に脅えています。イスラム国は、人を殺すことをなんとも思わない集団です。制圧されれば、女性も子どもも死に直面します。

米軍はコバニ周辺のイスラム国拠点に連日、空爆をおこなっているが、イスラム国は猛烈な速度で町への攻勢をかけている。写真は米軍F15戦闘機が9月27日、コバニ近郊でイスラム国の施設に爆撃をおこなった映像。写真左の施設が大きく吹き飛んでいる。中央右の黒い点模様はオリーブ畑と思われる。(米中央軍公表映像から)
米軍はコバニ周辺のイスラム国拠点に連日、空爆をおこなっているが、イスラム国は猛烈な速度で町への攻勢をかけている。写真は米軍F15戦闘機が9月27日、コバニ近郊でイスラム国の施設に爆撃をおこなった映像。写真左の施設が大きく吹き飛んでいる。中央右の黒い点模様はオリーブ畑と思われる。(米中央軍公表映像から)

 

◆世界の人に伝えたいことはありますか?

イスメット氏:私たちの町、コバニの住民が置かれている状況、そして人びとの苦しみに、みなさんの関心を寄せて ください。まだ脱出できないでいる老人、女性、子どもがいます。住民保護の避難路の確保や問題解決の手立てをともに考えてください。ここで殺戮が始まる前 に、避難路または、周囲の地域と安全に通行できる手立てを確保できるよう国際社会に呼びかけてください。そして、ひとりでも多くの命を救ってください。

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トルコ側は一部住民を受け入れたものの、大量の避難民流入に国境を統制するなどし、脱出できない住民も多数いる。トルコ国内ではクルド人が政府批判 のデモもあいついでいるが、国内のクルド問題とも連動するため、トルコ政府は慎重な姿勢を崩さない。米軍の空爆はイスラム国に部分的な損害を与えても組織 を壊滅させることはできず、そればかりか一般市民を巻き込む可能性もある。住民保護を最優先に暫定避難区域設定など一刻も早く国際社会が協調して事態解決 に取り組む必要がある。

アイン・アル・アラブはクルド人のあいだで「コバニ」と呼ばれてきた。かつて約7万人だった人口は、内戦が激化すると周辺地域から避難民が流入し、一時は2倍近くにまで増加した。イスラム国が勢力を拡大すると国外脱出などで住民は減少。イスラム国は戦車や迫撃砲で攻勢をかけ、市街地では激しい銃撃戦になっている。トルコ軍は国境沿いに戦車部隊を展開し、国境地帯の緊張は高まっている。
アイン・アル・アラブはクルド人のあいだで「コバニ」と呼ばれてきた。かつて約7万人だった人口は、内戦が激化すると周辺地域から避難民が流入し、一時は2倍近くにまで増加した。イスラム国が勢力を拡大すると国外脱出などで住民は減少。イスラム国は戦車や迫撃砲で攻勢をかけ、市街地では激しい銃撃戦になっている。トルコ軍は国境沿いに戦車部隊を展開し、国境地帯の緊張は高まっている。

 

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【解説】イスラム国に包囲されるシリアのクルド人(1)これはアラブ人とクルド人の民族衝突ではない。イスラム国のなかにもクルド人戦闘員はいるし、十字軍と戦ったイスラムの英雄サラディンはクルド人だ。イスラム国は、領土獲得という目的に加えて、クルド組織と戦う理由は大きく分けて2つある。(2014/09/24)

 

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