◇弁護士380人「テロというべき卑劣な行為」

従軍慰安婦問題を取材して記事を書いた朝日新聞の元記者を非常勤講師として雇用している北星学園大学(札幌市)に、学生に危害を加えるなどと脅す文書が送 りつけられた事件で、「北星学園大学への脅迫行為を告発する全国弁護士有志」が7日、札幌地検に対して迅速に捜査するよう求める刑事告発を行った。告発文 の中で、弁護士らは、この事件を、「言論封じのテロというべき卑劣な行為」と厳しく批判した。(アイ・アジア編集部)
告発したのは、全国各地の弁護士会に所属する弁護士380人。
被告発人は、不詳としている。

11月7日、告発人の共同代表を務める札幌弁護士会の郷路征記弁護士らが札幌地方検察庁に告発書を提出した。郷路弁護士によると、札幌地検特別刑事部が告発書を受領した。

告発文などによると、被告発人らは、2014年5月、植村隆元朝日新聞記者が非常勤講師として勤務する北星学園大学に対して、「(元記者を)辞めさ せろ。辞めさせなければ、学生を傷めつけてやる」「くぎ入りガスボンベ爆弾を仕掛ける」などと記載した文書を郵送し、大学の通常業務を妨害した威力業部妨 害の罪にあたるとしている。

そして、「これらの脅迫文や電話での脅迫行為に関しては、大きく報道されて国民的関心事となっている。国民が強い関心を寄せたのは、本件の手段があまりに卑劣であるだけでなく、そのことによって奪われようとしている価値があまりに大きなものだからである。

自らは闇に身を隠し刑事責任も民事責任も免れることを確信しながら、元記者を社会的に抹殺するという不当な目的を、同氏の言論とは何の関係もない、 勤務先であるに過ぎない大学に対して、大学に学ぶ学生を傷つけるという害悪の告知を行うことによって、達成しようとしているのである。卑劣このうえない手 段というべきである。

万が一にも、脅迫や威力妨害の効果として、元記者の失職が現実のものとなるようなことがあれば、犯罪者の脅迫行為が目論み達成のために有効なものと なる「実績」が作られることになる。このことは、言論の自由や学問の自由という民主主義社会にとって至高の価値が「暴力」に屈して危機に瀕する事態となる ことを意味している。

意に沿わない記事を書いた元新聞記者の失職を目論み、勤務先に匿名の脅迫文を送付するという違法行為は、言論封じのテロというべき卑劣な行為であ り、捜査機関は、特段の努力を傾注して、速やかに犯人を特定し、処罰しなければならない。捜査機関がこのような違法状態を放置するようなことがあれば、言 論の自由や学問の自由が危険にさらされ、「私的リンチ行為」が公然と横行し、法治国家としての理念も秩序も崩壊しかねない。それは多くの国民、市民が安心 して生活できない「私的制裁=リンチ社会」に道を開く危険な事態といわねばならない」
として、事件を解決することの重要性を訴えている。

告発人の共同代表の1人、大阪弁護士会の阪口徳雄弁護士は次のように話している。

「当初は100人集まるかと思い仲間の弁護士で告発人を呼び掛けたものが、380人も集まった。これは、自由な言論が脅迫などで屈することへの弁護 士の危機感の現れだ。朝日新聞の姿勢や、植村氏の報じた記事の内容に疑義があるとするのであれば、言論をもって批判し反論すべきが民主主義社会における当 然のルールでありマナーだ。雑誌やインターネット上において、植村氏並びに家族に対する名誉棄損、侮辱などの違法行為が堂々とまかり通っている。このよう な違法行為の放置は、法治国家において断じてあってはならない。親告罪ではない強要・脅迫などについては告訴を待つことなく、厳正に捜査をされるよう強く 求めたい」。

告   発   状

2014年(平成26年)11月7日
札幌地方検察庁 殿
告発人共同代表  弁護士 阪口徳雄(大阪弁護士会)
告発人共同代表  弁護士 中山武敏(第二東京弁護士会)
告発人共同代表  弁護士 澤藤統一郎(東京弁護士会)
告発人共同代表  弁護士 梓澤和幸(東京弁護士会)
告発人共同代表  弁護士 郷路征記(札幌弁護士会)
上記代表を含む別紙告発人目録記載の弁護士(   名)

被告発人(1) 氏 名 不 詳
被告発人(2) 氏 名 不 詳
第一 告発の趣旨

住所氏名不詳の各被告発人の下記各行為は、刑法234条(威力業務妨害罪)に該当することが明らかと考えられるので、早急に被告発人らに対する捜査を遂げ厳正な処罰をされたく、告発する。
第二 告発事実

第1 被告発人(1)は、元朝日新聞記者である植村隆氏(以下「植村氏」という)を失職させる目的のもと、2014年(平成26年)5月某日、同人 が非常勤講師として勤務する北星学園大学(札幌市厚別区大谷地西2丁目3番1号所在、運営主体は学校法人北星学園・理事長大山綱夫)の田村信一学長あて に、「植村をなぶり殺しにしてやる」「(植村氏を)辞めさせろ。辞めさせなければ、学生を傷めつけてやる」「くぎ入りガスボンベ爆弾を仕掛ける」などの趣 旨を記載した文書を郵送し、同月29日、同学長に上記文書を閲読させ、同学長及び同学長から当該文書の内容の伝達を受けた学校法人北星学園大山綱夫理事長 らをして、同法人従業員らに警察署等と連携し各種情報収集や情報交換のほか、日常的な巡回と緊急時の対応支援を要請するなどの態勢を構築させ、また、不測 の事態に備えて、危機管理コンサルティング会社や弁護士などの外部専門家と連携した危機管理態勢を構築させ、さらに、植村氏の講義実施にあたり警備態勢等 を取らせる等の対応を余儀なくさせ、これらに従事した同法人従業員らにおいて通常行うべき同社の業務の遂行を妨げ、もって威力を用いて同法人の業務を妨害 した。

第2 被告発人(2)は、上記植村氏を失職させる目的のもと、2014年(平成26年)7月某日、同人が非常勤講師として勤務する札幌市厚別区大谷 地西2丁目3番1号所在の北星学園大学(運営主体は学校法人北星学園・理事長大山綱夫)の田村信一学長あてに、「植村をなぶり殺しにしてやる。」「(植村 氏を)辞めさせろ。辞めさせなければ、学生を傷めつけてやる」「くぎ入りガスボンベ爆弾を仕掛ける」などの趣旨を記載した文書を郵送し、同月28日、同学 長に上記文書を閲読させ、同学長及び同学長から当該文書の内容の伝達を受けた学校法人北星学園大山綱夫理事長らをして、同法人従業員らに警察署等と連携し 各種情報収集や情報交換のほか、日常的な巡回と緊急時の対応支援を要請するなどの態勢を構築させ、また、不測の事態に備えて、危機管理コンサルティング会 社や弁護士などの外部専門家と連携した危機管理態勢を構築させ、さらに、植村氏の講義実施にあたり警備態勢等を取らせる等の対応を余儀なくさせ、これらに 従事した同法人従業員らにおいて通常行うべき同社の業務の遂行を妨げ、もって威力を用いて同法人の業務を妨害した。
第三 告発の事情と告発目的

植村氏は、1991年(平成3年)8月11日付の朝日新聞大阪本社版朝刊で韓国の元慰安婦の証言を他紙に先んじて報じ、同年12月には、この女性からの詳細な聞き書きを報じた。
これに対し、植村氏の妻の母親が韓国の「太平洋戦争犠牲者遺族会」の幹部であることを指摘し、身内を利するため、捏造した事実を含む記事を書いたとする批判が繰り返されてきた。
植村氏への中傷が激しくなる中、朝日新聞は本年8月5日付朝刊の特集においてこの問題に言及し、植村氏の記事の中に「慰安婦」と「女子挺身隊」との誤用が あったことを認めた上で、記事に「意図的な事実のねじ曲げなどはありません」「縁戚関係を利用して特別な情報を得たことはありませんでした」と結論づけ た。朝日新聞による上記特集紙面の結論の妥当性については、第三者委員会で検証されることが決まっている。
朝日新聞の姿勢や、植村氏の報じた記事の内容に疑義があるとする者においては、言論をもって批判し反論すべきが民主主義社会における当然のルールでありマ ナーでもある。しかし、インターネットが登場し、容易に誰でも匿名で情報を発信できることになって以来、匿名性に隠れて「言論」の領域から逸脱し、故ない 誹謗、中傷が繰り広げられ、刑法上の名誉棄損罪、強要罪、脅迫罪、強要罪などの違法行為となる言説がネット上で飛び交うことさえ見受けられる。時に、ネッ ト空間の一部が、いわば自分たちの気に入らない、または自己の主義主張に反する者に対する公然たる私的制裁行為=リンチの場に化している実態がある。
今回の植村氏の件では、インターネット上で、植村氏の実名を挙げ、憎悪をあおる言葉で個人攻撃が繰り返され、同人の高校生の長女の氏名、写真までさらされ る事態となっている。「反日」「売国奴」などを罵倒し、まさしく同人及び家族に対する私的制裁行為=リンチ行為の場と化している。その中では名誉棄損罪、 強要罪、脅迫罪などに該当する違法行為も公然と行われている。
このような風潮の中で、集団による私的制裁行為の一端として植村氏が非常勤講師を務める北星学園大学へ上述のような脅迫文が届いたのである。
加えて、2014年(平成26年)9月12日夕方ころには、被告発人らとは別人と考えられる人物が、植村氏を失職させる目的のもと、所在不明の電話器か ら、北星学園大学の代表電話番号(011-891-2731)に電話をかけ、電話を取った男性警備員に対して、「(植村氏を)まだ雇っているのか。ふざけ るな。爆弾を仕掛けるぞ」などと脅し、最近、威力業務妨害罪で逮捕に至った事件も発生している。上記脅迫電話の件については、北海道警察の捜査に敬意を表 するものである。
これらの脅迫文や電話での脅迫行為に関しては、大きく報道されて国民的関心事となっている。国民が強い関心を寄せたのは、本件の手段があまりに卑劣であるだけでなく、そのことによって奪われようとしている価値があまりに大きなものだからである。
自らは闇に身を隠し刑事責任も民事責任も免れることを確信しながら、植村氏を社会的に抹殺するという不当な目的を、同氏の言論とは何の関係もない、勤務先 であるに過ぎない大学に対して、大学に学ぶ学生を傷つけるという害悪の告知を行うことによって、達成しようとしているのである。卑劣このうえない手段とい うべきである。
万が一にも、被告発人らの思惑どおり、脅迫や威力妨害の効果として、植村氏の失職が現実のものとなるようなことがあれば、犯罪者の脅迫行為が目論み達成の ために有効なものとなる「実績」が作られることになる。このことは、言論の自由や学問の自由という民主主義社会にとって至高の価値が「暴力」に屈して危機 に瀕する事態となることを意味している。
意に沿わない記事を書いた元新聞記者の失職を目論み、勤務先に匿名の脅迫文を送付するという被告発人らの違法行為は、言論封じのテロというべき卑劣な行為 であり、捜査機関は、特段の努力を傾注して、速やかに被告発人らを特定し、処罰しなければならない。捜査機関がこのような違法状態を放置するようなことが あれば、言論の自由や学問の自由が危険にさらされ、「私的リンチ行為」が公然と横行し、法治国家としての理念も秩序も崩壊しかねない。それは多くの国民、 市民が安心して生活できない「私的制裁=リンチ社会」に道を開く危険な事態といわねばならない。
告発人らは、「基本的人権を擁護し、社会正義を実現すること」を使命とする弁護士として事態を傍観し得ず、以上の立場から本件告発を行うものである。
第四 捜査の要請
雑誌やインターネット上において、植村氏並びに家族に対する名誉棄損、侮辱(いずれも親告罪)などの違法行為が堂々とまかり通っている。このような違法行為の放置は、法治国家において断じてあってはならない。
告発人らは、植村氏及び家族らからの告訴の委任を受けている者ではなく、名誉毀損、侮辱について告訴をなす権限はない。しかし、植村氏らの告訴があった場合には、捜査機関においては直ちに捜査に着手し、各犯罪行為者を厳罰に処するよう強く要請する。
また、親告罪ではない強要・脅迫(本件脅迫状によるものを含む)などについては告訴を待つことなく、厳正に捜査をされるよう要請する。
第五 立証方法
1 資料1 インターネット記事
(どうしんウェブ 北海道新聞)
2 資料2 北星学園大学学長名義の文書
「本学学生及び保護者の皆様へ」
3 資料3 毎日新聞
4 資料4 新聞記事
第六 添付資料
1 資料(写し)       各1通

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