福島第一原発事故による放射性セシウム汚染で淡水魚の出荷制限・自粛が続く。海水魚が次々と制限解除に向かうなか、淡水魚は新たに出荷制限も。なぜそのような違いが生じるのか。(井部正之)

淡水魚出荷制限・自粛状況(2014年7月水産庁資料より)
淡水魚出荷制限・自粛状況(2014年7月水産庁資料より)

 

◆関東でも淡水魚の出荷制限

福島第一原発事故以降、魚介類の放射能汚染がしばしば注目されてきた。当初の食物の放射性セシウムの基準が1kgあたり500ベクレルと高めに設定されていたことによる基準をめぐる問題をはじめ、高濃度の汚染がみつかるたびに大きく報じられてきた。

2012年8月には原発からおよそ20km離れた福島県沿岸のアイナメからもっとも高い1kgあたり2万5800ベクレルの放射性セシウムが検出され、その後、原発の湾内からは1kgあたり74万ベクレルに達するきわめて高濃度に汚染されたアイナメが見つかった。

以下の水産庁の発表資料に示されたように、現在でも福島県沖では現在でもすべての沿岸漁業・底引き網漁業の操業が停止している。アイナメについても、福島県沖では2012年6月以降、出荷制限が続いている。

東日本太平洋における水産物の出荷制限・操業自粛等の状況
http://www.jfa.maff.go.jp/j/housyanou/pdf/141105kaimen-zu.pdf

海面における出荷制限や操業自粛等の状況(平成26年11月5日現在)
http://www.jfa.maff.go.jp/j/housyanou/pdf/141105kaimen2.pdf

だが、ミズダコやスルメイカなど51種類の魚介類については福島県沖でも試験操業が開始されている(詳細は以下の水産庁HP)。

各自治体における操業状況等について
http://www.jfa.maff.go.jp/j/housyanou/kekka.html

「放射能汚染被害への対応で、内水面漁業は海洋漁業に比べて格差が生じている」──。

河川や湖沼で淡水魚などを捕る内水面漁業の関係者から、不満の声が上がっている。

福島県沖では多数の魚介類がいまも出荷制限・自粛の状況だが、それ以外の地域では出荷制限・自粛はわずか数種類に限られる。

その一方で、実は福島県に限らず、関東でも淡水魚の出荷制限や県などの要請による自粛が続いているのだ。

たとえば千葉県では、手賀沼だけでモツゴ、フナ、コイ、ギンブナ、ウナギの5魚種が、一般食品の放射性セシウムの基準(1kgあたり100ベクレ ル)を上回る場合があるため、国の指示や県の要請により出荷制限や出荷自粛の状態だ。利根川ではギンブナやウナギ、江戸川でもウナギが同じく出荷制限・自 粛を余儀なくされている。手賀沼や利根川流域では現在も実質的にほとんど出漁できないという(2014年11月13日段階でも千葉県における出荷制限状況 は県資料の7月4日段階と変わらず)。詳細は以下の千葉県のホームページを参照されたい。

千葉県における水産物の出荷制限や出荷自粛等の状況
https://www.pref.chiba.lg.jp/gyoshigen/housyanou/jisyukuyousei/teganuma-motugofuna.html

一方、海水魚の場合、県内では2013年2月に銚子・九十九里沖のスズキに1kgあたり130ベクレルの放射性セシウムを検出し、県要請により出荷自粛の措置が取られただけだ。これも同7月には解除された。冒頭の不満はこうした対応の違いによる。

千葉県漁業資源課は「基準を下回る数値もかなり出ているが、安定的に数値が下がっているとまではいえず、現在ではすべて解除はむずかしい状態です」と話す。

淡水魚の全部が全部、高濃度に汚染されているわけではない。だが、ときおり基準を超えることがあるため、現状では出荷制限などの解除に踏み切れない。そんな状態のようだ。(つづく)【井部正之】

※『日経エコロジー』2014年10月号掲載の拙稿「いまだ出荷制限続く淡水魚 国レベルの取り組みが急務」に加筆・修正

福島原発事故による放射性セシウム汚染2~なぜ海水魚に比べ淡水魚の汚染が続くのか
福島原発事故による放射性セシウム汚染3~放射性セシウム汚染が低下しない淡水魚も存在

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