◇ 国内が突然緊張 日朝協議にも影響必至

だが、9月に入ってから北朝鮮国内の空気が大きく変わった。党や軍の幹部に対する粛清が始まり、住民に対する統制が強化されたのだ。次のような事態が内部から報告されてきた。

(1)10月6日と11日に、平壌の労働党幹部合わせて12人が銃殺刑に処された。理由は「金正恩同志と党の指示・方針を貫徹する事業をおろそかに した」「張成沢(チャン・ソンテク)氏と結託していたことがわかった」というもので、処刑の場には多くの党・警察・司法の幹部が集められたという。

(2)市場での食糧の売買を禁じ、国営の「糧穀販売所」でのみ流通させる措置を強行。
国家が食糧流通の主導権を住民から「奪回」しようとする動きと見られる。

(3)金正恩への忠誠が足りないとみなされた地方都市の党、軍、国家安全保衛部(秘密警察)の幹部に対する査問。

北朝鮮では、金正恩氏の絶対独裁システム作りが昨年から本格化している。「党の唯一領導体系確立の十大原則」という北朝鮮の最高規範が、金正恩氏に 合わせて39年ぶりに改訂された。全社会に金正恩氏の指導に忠誠を尽くすことが無条件に求められており、「言うことを聞かない者は容赦しない」という恐怖 で、権力内部の引き締めを図るというのが目的だと思われる。

北朝鮮の権力中枢には、「恐怖による綱紀粛正」という嵐が吹き始めており、当分の間、内政も外交も「金正恩氏の権威と尊厳を守る」ことが最優先事項 になるだろう。対日交渉の姿勢も、得失を計算しながら実利を確保するという政策立案が内部的に困難になり、当面は保守的、原則的で頑なになっていく公算が 大きい、というのが筆者の見立てである。
<金正恩政権の対日交渉戦略は何か>記事一覧

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