原子力の安全性に警告を発してきた京都大学原子炉実験所の6人の研究者「熊取六人衆」の一人、海老澤徹さんの講演が11月29日、大阪市中央区のドーンセ ンターで行われた。「原発事故の現状と今後」と題したこの講演の要旨をお届けする第2回目。(新聞うずみ火/鈴木祐太・栗原佳子・矢野宏)
◆ 主な汚染は2号機から
福島第一原発の現状ですが、4号機からの使用済み核燃料取り出しは最近終了しました。次は3号機の燃料取り出しです。免震重要棟でテレビカメラを見ながら遠隔操作での作業です。
1号機では炉心の大部分が熔融し、格納容器の底面に落下しました。2011年3月12日午後3時半には漏れ出した水素が建屋の5階部分にたまり、水素爆発しましたが、1号機の格納容器の気密性は最もよく、熔融炉心放射能の外部への放出は最も少ないのです。
2号機では炉心の約50パーセントが熔融し、その一部が格納容器の底面に落下しました。福島第一原発事故では、環境における主要な放射能汚染は3月15日の2号機の炉心熔融以降に発生しています。2号機の圧力抑制室の気密の悪さが大きな要因になっています。
また、地下室汚染水においても、2号機から高濃度の放射能汚染水が発生しています。
2号機から60~70パーセント、残りの20~30パーセントが3号機からです。今は循環冷却系のフィルターでこして、フィルターは第一原発の敷地内で全部保管しています。残りの水はタンクに保管していますが、すでに膨大なタンクの量になっています。
◆ 屋根飛んだ「幸い」
3号機も1号機同様、炉心の大部分が熔融して格納容器の底に落下し、下のコンクリート中に留まっていると推定されています。
3、4号機の水蒸気爆発は、大変なことではあったのですが、建屋の屋根が吹き飛んだことで、原子炉の冷却が可能になりました。これはむしろ、予期しない幸いでした。高圧注水車からの注水が可能になり、使用済み燃料プールに冷却水を送り込んで危機が回避されたのです。
当時は、半減期の短い放射能がべらぼうに多く、原子炉建屋内部の放射線量が非常に高くて人が近づけない状態です。屋根があったらどうしようもないと いう状態でした。 現在、福島第一原発で被ばくをもたらすのはセシウム。プルトニウム238も問題になりますが、それらに加えて、今後はアメリシウム 241が重大な被ばくをもたらすことになると思います。福島原発のプルトニウムはアメリシウムに変わっていく。50年後以降になるとむしろこっちの方がメ インになると思います。
◆ 復活した「原子力ムラ」
2年前の総選挙で自民党は圧勝し、安倍政権が成立しました。それと同時に、以前の「原子力ムラ」も一気に復活しました。原子力規制委員会の田中俊一委員長も元の原子力ムラに復帰しました。
2年前に原子力規制委員に就任した東京大学の田中知(さとる)教授は「日本原子力学会」の会長であり、次の規制委員会の委員長候補ですが、「学会に おける原子力ムラの村長」として安倍内閣の原子力推進の旗振り役を担ってきた人です。九州電力の川内(せんだい)原発の再稼働問題でも、規制委をリードし て再開容認に導きました。関西電力の高浜原発、大飯原発の再稼働問題でも、その実現に向けて推進派をリードするに違いないと思います。
(おわり)