◆廃炉に伴う廃物処理の困難
R:放射性廃物の地層処分などにかなり莫大なお金がかかるであろうということですか。
小出:そうです。一番危険な放射性廃物は、使用済み燃料そのもの、あるいは、再処理ということをやってしまえ ば、高レベルガラス固化体です。その次に恐ろしいものが原子炉本体です。30年なり40年動いて、放射能の塊になってしまったその鋼鉄をどうするのかとい う問題があります。
使用済み燃料、あるいはガラス固化体は、深地層、つまり深さ300メートルから1000メートルの地下に埋めようというのが日本政府の方針なので す。では、放射能の塊になった鋼鉄をどうするかというと、それを300メートルや1000メートルの深さに埋めるのは大変なので、「余裕深度」と彼らは 言っているのですが、「50メートルとかそれぐらいの穴を掘って埋めてしまいたい」と彼らは言っています。ただし、その場所すら未だにありません。
R:地下300メートルというのは現実的なのですか。
小出:私は全然そうは思いません。私は地震学者ではありませんので、正確な判断ではないかもしれませんが、地震 というのは深さ何キロ、何十キロという深い所で発生して、岩盤をバリバリ割りながら地表まで断層が現れてくるというような現象ですから、300メートル、 1000メートルなんていうのは全然深くないのですね。
例えば、東海地震というものは、100年か150年に一度ずつ起きてきたということが分かっています。仮に今度起こる東海地震で被害がなかったとし ても、また100年か150年後には襲ってくるわけですね。一度埋めてしまった放射能のゴミは、曲がりなりにも安全になるまでに10万年とか100万年か かるとします。そして地震が仮に100年おきに来るとすれば、1000回、10000回と耐えなければいけないことになります。そんなことはあり得ないと 私は思います。
R:受け入れ自治体の問題もありますね。
小出:そうです。未だに、高レベル放射性廃物を受け入れるという自治体はひとつも日本にはありません。そのた め、ある時にはモンゴルに押し付けてしまおうというような案まで出てきて、日本という国は恥ずかしい国だと私は思いました。今後も高レベル放射性廃物を引 き受ける自治体は恐らくなかなか出てこないだろうと思います。
R:日本の原発事故を受けて、ドイツは原発から脱却することを決めたと言われています。ドイツの場合、どのように廃炉を順次していくのでしょうか。
小出:ヨーロッパはカンブリア台地という古い地層の上にあり、ドイツの地下には岩塩層というのが広がっていまし て、要するに塩の塊が地下に眠っているわけですね。塩の状態であるということは、そこに水が入ってこなかった証拠だとドイツの人たちは考えました。そのた め、岩塩層に放射能のゴミを埋めてしまえば、水が浸入してこないから、外に放射能が漏れていくこともないだろうと考えて、一時期そのテストを始めました。 ところが、人間が岩塩層の中に穴を掘ってしまったら、そこに水が入ってくるようになってしまったのです。そのため、ドイツは岩塩層に処分するという方策を 諦めてしまいました。でも、どうすればいいのかということに関しては、まだドイツも決めかねています。
R:ということは、世界で原発事故が起こらなくても、原発の廃炉問題は今、私たちの手に負えない問題としてあるということですね。
小出:「科学がいつか何か良い方法を見つけてくれるだろう」と思って、これまで原子力をやってしまったわけですけれども、いくら経ってもいい方法が見つからないまま、今があるわけです。
R:どこまで先延ばしを続けるのですかね。
小出:本当ですね。ちゃんと原子力を進めてきた人たちにも、自分たちが何をやってきたのか考えてほしいと私は思います。
世界的にみても、廃炉技術は確立されていない。原発後進国の日本ではなおさらだ。これから原発を捨てたとしても、今ある原発は廃炉作業をしなければ いけないし、放射性廃物の処理もしなくてはいけない。今、求められるのは、こうした技術を確立するために、人材を確保し予算をつけて研究を進めていくこと ではないだろうか。