◆ 影落とす拉致問題
この20年で神戸朝鮮初中級学校の児童・生徒数は震災前の236人から169人に減っていた。少子化もあるが、拉致問題の影響も大きいと、金校長はいう。
「朝鮮学校に通わせると、何か危害を加えられるのではないかという不安を持っている同胞もいますから」
実際に、チマチョゴリの制服ではないのに、女子生徒のスカートが切られる事件も起きている。特に、北朝鮮による拉致事件が発覚したあと、朝鮮学校を「反日教育を行っている」とか、「北朝鮮のスパイを養成している」などという目で見ている人もいる。
門柱に赤いスプレーを吹きつけられたり、ブロックを投げ込まれて玄関のガラスを割られたり、猫の死骸が投げこまれたり、学校のコンクリート壁に「死」と書かれた落書きも見つかっている。
震災後、学校の周辺には復興住宅がいくつも建てられ、新しい住民も増えた。理解を示さない人がいたとしても不思議ではない。
「運動会をやっていても苦情の電話がかかってきます」と、金校長は困惑した表情を浮かべた。
さらに、朝鮮学校を悩ます制度の問題もある。「高校授業料無償化」も認められず、地方自治体から支給されていた補助金もストップしている。当然、保護者への負担も増す。
それでも朝鮮学校で学ばせるのはなぜか。
◆ 「隣人」と認め合う
震災で、当時6年生だった長男の金禎浩(キム・ジョンホ)君を亡くした左恵子(チャ・ヘジャ)さん(56)が語っていた言葉を思い出す。
恵子さんは通名(日本名)で日本の学校に通い、小学5年のときにいじめに遭った。そのとき、「私はいったい何人だろう。日本人でもない。朝鮮人といっても朝鮮語がしゃべれない」と悩んだという。
「それゆえ、子どもには朝鮮人であることを自覚してもらいたい。朝鮮人であることを隠すのではなく、この日本で誇りを持ち、胸を張って生きてもらいたいから朝鮮学校へ入れたのです」
朝鮮学校の子供たちは日本で生まれ、日本で暮らしていく「隣人」である。一歩踏み込んで触れ合うこと。お互いの違いを認めてともに生きていくこと。それが真の人権社会を築く第一歩である。
(終わり)
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