動画メッセージには政治タブーの表現も
2013年夏、中国に出国してきた平壌に住む取材協力者が興味深い動画をアジアプレスに提供してくれた。いずれも北朝鮮内部で流通しているものだと いう。北朝鮮製のアニメや格闘技映像の他、韓国演歌のカラオケビデオ、若い女性が室内で「ディスコダンス」を踊っている映像、そして携帯電話で送られたい くつかのメッセージ動画が含まれていた。そのうちのひとつ、中学生による誕生祝いのメッセージ動画を紹介しよう。
映像を提供してくれた協力者によれば、大学生や中学生(北朝鮮は六年制)にとって、パソコンや携帯電話でメッセージ動画を作るのはお手のもので、中国製の 制作ソフトがよく利用されるという。この動画に登場する女の子は日本の人気アニメのキャラクターで、それを取り込んだものと思われる。
動画メッセージの文句は次のようなものだ。
「友よ、誕生日おめでとう」
「君に伝えたい言葉はたくさんあるけれど」
「君は二人といない存在だよ」
「空にきらめくお星さまのように」
「きみの瞳はいつもキラキラしている」
「志望大学に餅のように受からなきゃ」
「君の未来が蒼々たることを」
「祈祷するよ(祈っているよ)」
「友よ、愛してる」
「17歳純情、君の親友より」
ラブメッセージのようにも読めるが、女子中学生同士のやり取りのようでもある。この動画メッセージを見た平壌出身の脱北者は、「危ない」表現が含ま れていると感想を述べた。「祈祷する」相手は、当然「神様」であるが、北朝鮮では、願いを託す神の存在、宗教的な祈りなど許されていないからだ。
「『祈祷する」という表現は政治的な問題を引き起こす可能性が十分にあります。しかし、まだ重大性に気づいていない中学生の間で、『祈祷する』という言葉が流通しているのかもしれません』
この脱北者はこのように言う。
韓国では「祈祷する」という言い方を、必ずしも宗教的な意味合いなしに、ごく普通に使っており、メディアの中でも自然に現れる。北朝鮮の中学生が、 この「祈祷する」という危険な言葉を、当局の監視にさらされているであろう携帯メッセージに使っていることは、密かに北朝鮮に入り込んだ韓国のドラマや映 画が、若い世代の間で相当に拡散・普及していることを想像させる。
なお、携帯端末が情報の伝播・拡散のメディアになっていることを憂慮した北朝鮮当局は、2012年以降に発売した機器から、SDカード使用機能や、 ブルートゥースなどの情報移動機能を除去する措置を取った。北の一般携帯電話は国際通話、メールが遮断されている。携帯電話への統制強化については、あら ためて報告する。
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