◇人糞争奪戦で諍いも
新年が明けると、北朝鮮の人々には、毎年恒例の二つの苦痛が待っている。一つは、「新年辞」と呼ばれる金正恩氏の年頭の演説を暗記することだ。金正 日時代は、「労働新聞」「朝鮮人民軍」「青年前衛」の三つの新聞の共同社説を覚えさせられた。職場や学校で暗唱競争があり、出来の悪い人は批判にさらされ るため、皆が必死で指導者の面白くもない演説を丸暗記するという。
二つ目は、春の種まき、田植えに備えた堆肥作り。人糞、家畜の糞を集めて、稲わらや乾燥させた草などを混ぜて作るのだがノルマがある。北朝鮮中部地域に住む取材協力者のキム・ドンチョルは次のように言う。
「一日に世帯当たり100キロずつ十日間の堆肥集めが今年のノルマです。年頭の人民班会議では、誰もさぼることなく参加するよう強調されました。最近は社会統制が、それはそれは厳しいので、変に目を付けられないよう真面目に参加しましたよ」
写真は、キム・ドンチョルが、女性たちが堆肥を持って集まっているところに出くわし撮影したものだ。
平壌など大都市では人糞集めが容易でないため、職場別に金を収めるのが通例だという。地方都市ではノルマ達成のため、人糞の取り合いになって喧嘩になることもあるという。(石丸次郎)