イスラム国の部隊にすべての幹線道を閉鎖されているため、食糧は、北側の国境からトルコのクルド系政党が届けてくれる救援物資だけだ。それを地元で均等に分け合っているが、量は限られている。
台所には保存食のオリーブの漬物や、魚の缶詰、チーズの入った瓶があるぐらいだった。主食のナンや油、米などに加え、発電機用の燃料はYPGの配給隊が届けてくれる。1日に2、3時間発電機をまわし、井戸の水を汲み上げたり、戦況を知るためにテレビをつける。
ジャミラさんは、バケツに溜めた水でコップをすすぎ、紅茶を入れてくれた。ガスもなく、小さな登山用のアルコールランプでお茶を沸かす。料理も、お風呂代わりに体を拭く湯もこの小さなランプが頼りだという。
「コバニの人はね、お客さんが大好きなの。でもいまは何もなくて、本当にごめんなさい」
ジャミラさんは、恥ずかしそうにうつむいて、小さなコップに紅茶を注いでくれた。
先日、隣人3人が砲弾の直撃で命を落とした。「逃げたほうがいいのではないですか」と私が聞くと、おじのムハマド・バクルさん(47)は言った。
「コバニは自分たちの故郷だ。町をめちゃくちゃにして、住人を追い払うことがイスラム国の狙いだ。でも絶対にこの土地は守るつもりだ」
コバニがイスラム国に包囲されて1年以上。市内への侵攻が始まって3か月がたつ。学校も行政機関もすべて停止している。銃弾の飛び交う瓦礫のなかで、若者は銃をとり、老人は食料運搬を手伝い、必死に町を守り抜こうとしていた。
【玉本英子】
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