◆「イスラム国の末端戦闘員は自分たちと紙一重」
シリア北部の町、コバニでイスラム国と戦っているのはクルド組織、人民防衛隊(YPG)だけではない。イラクから派遣されたクルド兵ペシュメルガや、自由シリア軍、そしてわずかながらトルコの武装左翼がいる。
自由シリア軍はYPGの敵だった。2年前、シリア北部のセレカニエ(アラブ名ラアス・アル・アイン)での衝突では双方あわせて数百人の死傷者が出 た。このとき私は戦闘終結直後の現場に入ったが、地区のどの建物も銃弾で穴だらけになっていた。それが昨年9月、YPGは自由シリア軍との対イスラム国戦 での「共闘」を表明した。
自由シリア軍の戦闘員、アブゼル(仮名)は19歳。浅黒い顔がいかにもアラブ人という顔立ちで、まだ少年の面影を残していた。「自由シリア軍に入ったのはアサド政権を打倒しシリア人を解放するため」と話す。
彼の出身地ラッカは、現在、イスラム国が「首都」とし、支配下に置いている。家族はまだ町に残っていて、数度、短く電話で話したきり。戦闘が続くなか、もともと貧しかった家族の生活はさらに苦しくなった。
2011年に反政府運動が始まると、ラッカでも反アサド政権の動きが広がった。当初、アレッポなどに比べて戦闘は激しくなかったものの、2013 年、武装組織諸派が衝突し、その後はイスラム国が制圧した。いま、町は反対勢力への弾圧に加え、米軍とシリア政府軍双方からの空爆にさらされている。
イスラム国についてどう思うか、と訊くと意外な答えが返ってきた。
「彼らがやっていることは酷い。仲間も殺された。だけど、自分だってイスラム国に入ってたかもしれない」
アブゼルの友人の何人かは、イスラム国の戦闘員になった。組織に惹かれ参加した者もいるかもしれないが、地元の部族が迫られて戦闘員にさせられたり、入隊すれば給料がもらえるからと、家族を養うために加わることもあるという。
「イスラム国と聞けば恐ろしいイメージしかないかもしれないが、地元の下っぱ戦闘員には、僕のように、ただの貧しい若者もいる。前線に出れば戦わなくては ならないし、誰かを殺せと命令されれば拒否できない。内戦がみんなを追い込んだ。そしていま、どうにもならなくなってしまったんだと思う」
シリアでは多くが、アサド政権のせいだ、いやイスラム国が悪い、と誰かを責め立てる。それだけに、アブゼルの言葉はひときわ重く響いた。
【玉本英子】
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