◆薬物は戦闘の恐怖から逃れるため?
シリア北部の町、コバニ(アラブ名アイン・アル・アラブ)の3割近くを支配下に置くイスラム国。すでに住民が逃げ出した制圧地域では、放置された建物や家屋に部隊を配置し、地区ごとにいくつもの拠点を置いている。
町を死守するクルド組織、人民防衛隊(YPG)が昨年12月下旬に奪還した地区からは、イスラム国の武器、弾薬、自爆ベルトなどに加え、薬物と見ら れる所持品多数が見つかった。包帯などを入れる医療ポーチのなかにはアンプル剤、鎮痛作用のある錠剤もあった。YPG側は、こうした医薬品のなかからは、 士気高揚や恐怖心克服のための薬物が多数見つかっていると説明する。
これまでシリアではタバコや酒は合法だった。地方の農村地域では、大麻草も密かに栽培されてきた。イスラム国は、「タバコ、酒類、薬物はイスラムに反する もの」とし、支配地域で徹底した取り締りをおこなっている。押収品は廃棄し、所持者を鞭打ちや投獄などで厳しく処罰、「道徳風紀を高め、社会純化をするイ スラム国」と自身のメディアで公表してきた。
12月末、YPGはコバニ南部地区の奪還作戦を展開、イスラム国の部隊指揮官がいた建物を急襲した。死亡したイスラム国の地区部隊長、アブ・ザハラの所持品からは、コカインと見られる多量の薬物が出てきた。
「死を恐れぬムジャヒディーンと自分達では宣伝するが、実際には戦闘での恐怖心から逃れるために彼ら自身がこうした薬物を使っている」と、押収した薬物を見せたYPG戦闘員は話した。
こうした薬物は、戦闘員の恐怖心克服のほか、負傷時の鎮痛用途にも使用されていると思われる。イスラム国以外の地域の密売組織に売って資金源としている、との推測もシリア国内にはある。
「死を恐れないイスラム国」は本当なのか。
ジハード(聖戦)を信じて参加した外国人義勇兵は別にしても、地元で加わった若者たちのなかには、実際には死の恐怖に脅えながら銃を持っている者も少なくないのではないか。
地区部隊長が所持していた多量の薬物は、何を物語るのか。イスラム国の別の側面もかいま見えてくる。【玉本英子】
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