2015年最初の「うずみ火講座」が1月10日、大阪市中央区のドーンセンターで開かれ、元自衛官の泥憲和(どろ・のりかず)さんが「集団的自衛権とヘイ トスピーチ」について語った。講演内容の書き起こし第2回目では、平和的アプローチだからこそ成しえた紛争解決の事例をお届けする。(新聞うずみ火/矢野 宏)
◆ヘイトスピーチは劣情に訴えるもの
ヘイトスピーチで、「在日特権を許さない市民の会」は北朝鮮の拉致問題を出し、拉致に協力した朝鮮総連を許すな。その支配下にある朝鮮学校はテロリ ストの学校だから助成金をやるなという話になる。正しい歴史教育がされていないから、そういう話がスーッと入っていくのでしょう。
道理を持って説いてもダメだから国民の劣情に訴える。「日本人は優秀なんだ」とか「朝鮮人はダメなんだ」とか。理性的に打ち出すのではなく、薄汚い 心をかもし出すやり方なのです。ヘイトスピーチに反対するカウンターの闘いは差別反対だけでなく、日本の中に培われてきた、理性的で平和的な自由なものの 考え方を切り崩すやつらとの闘いなのです。
◆平和もたらす憲法
憲法の力で平和をもたらした実例があります。
フィリピン南部のミンダナオ島で、1969年から「バンサモロ解放戦線」(モロ族のイスラム解放戦線)と政府との武力紛争が続いていました。開発が 進まず、貧しい地域です。ゲリラと政府軍との間で停戦にこぎつけ、2004年にアジア各国が停戦監視団を送り込みました。2年後に日本も参加しました。と はいえ、紛争地に自衛隊は送れないため、国際協力機構(JICA)の職員を送ったのです。
職員たちは村々を回って意見を聞き、学校の再建からやろうと決めた。同時に、現地の人たちを集めて学校運営についてレクチャーを行い、平和になれば こんないいことがあるという教育を行ったのです。子どもたちのことを考える席にキリスト教徒もイスラム教徒もありません。顔を合わせるたびに両者の対立が 氷解していったそうです。これも丸腰のJICAだからできたのです。
さらに、JICAは日本から農業指導者を招いて現地の人たちに農作業を教え、農作物の収穫が飛躍的に増えたそうです。職業訓練校や水産試験場も作り、豊かになるように導いていったのです。
独立闘争の目的は地域を豊かにすること。ゲリラする必要もなくなり、2014年3月にバンサモロ解放戦線と政府との間で包括的和平合意文書が調印さ れました。6月には、バンサモロ解放戦線の議長や政府の代表による新しい自治政府設立に向けた話し合いが広島市で開かれたのです。広島を訪れたバンサモロ 解放戦線の幹部の一人が、生まれた娘に「ヘイセイ」という名前をつけたそうです。その理由が「日本に来て、日本人が心から平和を愛していることを知ったか ら」。平和的なアプローチがゲリラの心を変えてしまったのです。
日本には9条があるから、兵隊を送れないから、どうすれば和平に結び付けられるか知恵をしぼって考え、地道に努力を重ねていったのです。
(おわり)