原子力発電は、核分裂による生成物を人類が制御しうるという前提のもとに存在してきた。その前提はいまや崩れ去っているが、それ以前に、核分裂生成物とい う毒物の取り扱いの方がはるかに重要であることに私たちは気付かなければならない。京都大学原子炉実験所・助教の小出裕章さんが解説する。(ラジオフォーラム)
◆人類が手にした夢のエネルギー
ラジオフォーラム(以下R):今日は核分裂とは何か、そして原子力発電とどう関係しているのかお聞きしたいと思います。
小出:核分裂の核というのは、私たちが原子核と呼ぶもののことですが、長い人類の歴史の中では、いわゆる元素、 例えば水素、酸素、炭素、鉄、アルミなどといった元素そのものは別の元素には変換できないというのが、これまでの常識だったのです。けれども、1938年 の末になりまして、ウランという元素を別の元素、あるいは原子核に変えてしまうことができるということが発見されたのです。
その反応を核分裂反応と言うのですが、ウランというのは結構、大きな原子核なのですが、それが2つに、あるいは場合によっては3つに分裂して、全く 違う原子核、元素になってしまうということがわかりました。その時に、膨大なエネルギーが出てくるということもわかりました。その頃は第二次世界戦争の前 夜だったわけで、それを使って爆弾をつくれないかということをすぐ考える人たちが出てきたのです。
結局、何ができたかと言えば、いわゆる原爆です。日本というこの国は広島と長崎に2発の原爆を落とされて、多くの人々が苦難のどん底に落とされると いうことになりました。それを見て、原爆というのはものすごいと、普通のこれまで人間が使ってきた爆弾とは全く違う爆弾だということに皆、気が付いたわけ です。そして、これまで使ってきた薪であるとか、石炭であるとか、石油であるとか、それらの反応とは全く違うエネルギーが出るのであれば、それを人類の平 和のために使えるのではないかという期待までが生まれてしまったのです。それで生み出されたのが原子力発電という技術です。
実は私自身も「原爆は悪いけれども、核分裂のエネルギーを人類のために使いたい。原子力発電をやりたい」と思ってしまった人間なのです。
R:夢のエネルギーだということで、発電に応用されたのが原子力発電だということですね。
小出:はい。
R:若かりし小出青年もその夢に懸けたということですね。
小出:その通りです。愚かだったと思いますけれども、核分裂反応に夢を抱いてしまいました。