「慰安婦問題を捏造」などと一部メディアに批判されたことから、脅迫など深刻な人権侵害を受ける植村隆さんの講演が大阪で行われた。週刊文春の記事に端を発する一連の「捏造」批判に反論する。(栗原佳子/新聞うずみ火)
◆妨げられた転職
昨年1月末の週刊文春に《"慰安婦捏造"朝日新聞記者がお嬢様女子大教授に》という記事が載った。早期退職して神戸の大学に転職する予定が妨げられ た。大学には、「なぜこんな捏造記者を雇うのか」など1週間に250本くらい抗議のメールがあり、さらに抗議電話もあったという。
文春の記事では東京基督教大の西岡力教授が次のようにコメントしていた。
「『挺身隊の名で戦場に連行され』とありますが、挺身隊とは軍需工場などに勤労動員する組織で慰安婦とは全く関係がありません。しかもこのとき名乗り出た 女性は親に身売りされて慰安婦になったと訴状に書き、韓国紙の取材にもそう答えている。植村氏はそうした事実に触れずに強制連行があったかのように記事を 書いており捏造記事といっても過言ではありません」
私は記事の前文で「『女子挺身隊』の名で戦場に連行され~」と書いた。当時、韓国では挺身隊は従軍慰安婦と同じ意味で使われ、日本の他のメディアも 同様の表現を使っていた。それに、私は「だまされて慰安婦にされた」と書き、強制連行とは書いていない。金学順さんの訴状には「身売りされた」という記述 はない。韓国紙の取材にも、そのようには答えていない。
私がバッシングされているもう一つの記事は91年12月25日付の《かえらぬ青春 恨の人生 日本政府を提訴した元従軍慰安婦・金学順さん》。日本 の弁護団の聞き取りに同行取材した。この記事でも私は、金さんが「『そこに行けば金儲けができる』。こんな話を、地区の仕事をしている人に言われました。 仕事の中身は言いませんでした」と話したと書いており、強制連行とは書いていない。
元「慰安婦」たちの証言には多少ズレもある。だが意に反して慰安婦にされ、日本軍人の性の相手をさせられたのは揺るぎない事実であり、それだけで人権侵害だ。しかし、その入口のところの表現で一部のメディアはバッシングする。
昨年8月5日、朝日新聞は慰安婦報道の検証記事を掲載した。「慰安婦狩り」をしたという「吉田清治証言」については虚偽だとして記事16本(後に2 本追加)を取り消した。私は「吉田証言」の記事は一本も書いていない。92年1月の《慰安所設置に軍関与》というスクープ記事も、東京社会部によるもの で、大阪にいた私は関わっていない。
検証記事が出た後、激しい朝日バッシングがはじまった。私の記事には捏造はないと発表されたが、バッシングはエスカレート、非常勤講師をしている北星学園大や家族にも攻撃が加わった。バッシングの理由は何か。憎悪の背景を考えたい。(続く)
この記事は3回に分けてお届けしています。