過去の慰安婦報道を理由に脅迫など深刻な人権侵害を受ける植村隆さん。家族や無関係な人々にまで脅迫が及んでいる現状とその背景、そしてそれに立ち向かう自らの決意を語る。(栗原佳子/新聞うずみ火)

慰安婦報道バッシングの背景について語る植村隆さん (大阪にて/栗原佳子)
慰安婦報道バッシングの背景について語る植村隆さん (大阪にて/栗原佳子)

◆ 憎悪の背景には

昨年8月5日、朝日新聞が慰安婦報道の検証記事を出した後、激しい朝日バッシングがはじまった。私の記事には捏造はないと発表されたが、バッシングはエスカレート、非常勤講師をしている北星学園大や家族にも攻撃が加わった。バッシングの理由は何か。憎悪の背景を考えたい。

まず、私が朝日の記者であること、記事が署名入りだったことがある。証言者第1号の金学順さんは、慰安婦問題がここから進み始めたという意味で、と ても大事な人。その勇気に触発され、韓国でも200人以上の元「慰安婦」が証言を始めた。私はただ歴史の転換点に少しいただけだが、そういう人物を報じた ことに対し、慰安婦問題が国際問題化することに反発を抱く人たちが、署名記事を書いた私を標的にしたのではないかと思う。

たぶん、私の場合は「物語」が作りやすいのだろう。私の妻は韓国人。その母親は、日本政府に戦後補償を求める「太平洋戦争犠牲者遺族会」の幹部だ。 朝日バッシングの本には、「植村記者は個人的動機から紙面を利用し、虚報を流し続けたのではないかという批判もある」などと書かれている。

朝日の歴史認識、リベラリズムへの憎悪もある。私だけではなく、背後にある朝日をすくませよう、朝日に代表されるリベラルな人たちをひるませようと しているのではないか。歴史の暗部を見つめることは許せないと、圧迫しようとする人たちがいる。今はそういう時代なのではないか。

◆ 娘の顔もネットに

辛いのは娘まで誹謗中傷されたことだ。昨年6月頃からネットに「植村の娘」という書き込みが増え、顔写真をさらされ、「自殺するまで追い込むしかない」などと書かれた。白いシーツに黒いシミがどんどん広がっていくような感じだった。

朝日の記者を批判したい人はいる。しかし娘は全く関係ない。私が慰安婦問題の記事を書いたのは24年前。娘は17歳だ。本当に許せない。

ただ、ネットは人を圧殺する部分もあるが、人の心もつなぐことがある。娘までさらされ、大学もクビになりそうで、さすがに堪えきれなくなっていた昨 年9月頃、地元の知人が大学への応援メールを発案した。フェイスブックやメールで全国に発信し、大学には応援がどんどん届いた。メールを見た全国380人 の弁護士が大学へ脅迫状を出した人物を刑事告発した。大学も勇気をもらい、私は継続雇用になった。

狭山事件の主任弁護人でもある中山武敏弁護士はメールを見て、「一緒に闘おう。君だけの問題じゃない」と声をかけてくれた。170人の弁護団で1月9日、西岡氏と週刊文春を相手に名誉毀損の裁判を起こした(2月10日に桜井よしこ氏らも提訴)。

私の人権だけではない。家族や、私の息子と間違われネットで攻撃された青年の人権も守りたい。私が捏造記者でないことを証明すれば大学の安全も高まるだろう。裁判と言論の両方の場で闘っていこうと思う。

私はこれだけやられても落ちこまない。それは卑怯なことはしていないから。私は捏造記者ではない。だから、不当なバッシングには絶対に屈しない。(終わり)

この記事は3回に分けてお送りしました。

<< 「捏造」バッシング屈しない~元朝日新聞記者 植村隆さん語る(1)

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