石綿被害について国は責任回避のために嘘と隠ぺいの主張を繰り返してきたが、2014年10月、大阪・泉南地域のアスベスト被害者やその家族らが国を訴え た「泉南アスベスト国賠訴訟」で、最高裁は国の責任を断罪して終結した。日本における「アスベスト被害の原点」とされるこの訴訟を改めて振り返るととも に、残された問題について考察する。第4回目は、「画期的」とも評価がある一方、課題も指摘された2007年5月の大阪地裁判決(第1陣)について報告す る。(井部正之)

大阪・泉南地域の中学校に隣接する旧アスベスト紡織工場。最盛期には200余りの中小零細のアスベスト工場が生活圏に林立していた。この中学校となりの工場もその1つ。こうした工場から飛散したアスベストによる環境被害には抑制的な判決だった(撮影・井部正之、2007年9月)
大阪・泉南地域の中学校に隣接する旧アスベスト紡織工場。最盛期には200余りの中小零細のアスベスト工場が生活圏に林立していた。この中学校となりの工場もその1つ。こうした工場から飛散したアスベストによる環境被害には抑制的な判決だった(撮影・井部正之、2007年9月)

 

◆国と企業の共同不法行為と認定

「1960年の旧じん肺法成立までに(工場内でアスベスト粉じんを除去する)局所排気装置の設置を中心とする石綿粉じんの抑制措置を使用者に義務付けなかったことは、著しく合理性を欠くもので違法」

2007年5月19日、大阪・泉南地域におけるアスベスト被害に対する国家賠償訴訟の大阪地裁判決は、国の不作為をおおよそこう認定し、原告26人に対して計4億3505万円(各原告に対して687万5000円~2750万円)の支払いを命じた。

このほか判決は局所排気装置設置を義務づけた1972年の特定化学物質障害予防規則(特化則)制定時にアスベスト濃度の報告・改善義務を設けなかったことを違法と認定。国民に対する情報提供義務を怠ったことも、上記の責任の一部として認めた。

しかも、国と企業の共同不法行為責任とし、監督権限に基づく二次的な責任ではなく、国の直接的な責任と断じた。

以下に判決の主な内容を示す。

・国と使用者の共同不法行為責任と認め、国の責任を断罪
・1960年のじん肺法の制定時に国が局所排気装置の設置を義務づけなかったことの違法性を認定
・事業場におけるアスベスト粉じんの測定について、1972年の特化則制定時に報告・改善義務を設けなかったことを違法と認定
・国が国民に対して情報提供をおこたったと認定
・近隣住民の被害についてアスベストとの因果関係を否定
・労働者の家族被害について、アスベスト被害を否定
・石綿肺(アスベストを多量に吸入することによって起こるじん肺)の医学的知見の確立は1959年とされ、それ以前の労働者の被害で国の責任を否定。戦前の国の調査は参考扱い
・アスベストによる中皮腫と肺がんの医学的知見は1972年に集積と判断
・環境曝露被害について1989年までに医学的、疫学的知見が集積されていたとする原告の主張を否定し、環境関連法での違法性を認めず
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