◇ 車両の個人所有という脱法行為の横行
布告文から読み取れるもう一つの社会問題は、不法、違法な車両登録と利用が蔓延している事態だ。今の北朝鮮では、「社会主義」公共交通機関の麻痺に より、「市場経済」式の運送サービスが北朝鮮全域で盛んに行われている。運営しているのは主に車両を所有する軍部隊や工場などの機関、企業所で、時に個人 の場合もある。現在の北朝鮮の交通インフラは、鉄道を除いて、実際はほとんどがこうした政府以外の人々が担っている。
北朝鮮では車両の個人所有が許されていない。個人が金儲けのために運送業を行おうとすると、中国から輸入された車両を購入して、それを国家機関や企 業所の「組織の車両」として登録してもらい、その代価として毎月いくらか上納金を支払うのだ。このような違法・脱法行為が蔓延しているのが実情だ。
違法に登録された車両は、当然のことながら当局の統制から外れることになる。事故を引き起こすことも多く、法が徹底されない状況を招いているため、当局が布告文を通じ処置を下したものとみられる。
何事も権力が徹底管理することが原則となっている北朝鮮で、権力が把握できない車両が増大して、個人が勝手に金儲けをしており、おまけに事故も多発 しているわけだ。交通安全の問題だけなら、わざわざ布告文を出さずとも、党や行政機関による通達でも済ませられるわけで、「厳罰に処す」という強い表現か ら、当局が問題視しているのが、運送手段の独占と管理が瓦解している点にあるのだと思われる。
発表された布告文は国防委員会名義であった。つまりこれは、金正恩氏直々の命令と同じだと考えてよい。そのため、国内では車両統制と交通法規の厳格適用が始まっている。
次回は、布告文に基づいて実際にどのような取締りが行われているかを報告する。また、布告文のもう一つの柱である「海洋秩序の乱れ」について解説する。(続く)
違反する者を厳格に処罰することについて
国家の交通秩序と海洋運用秩序を厳格に守ることは、国家の社会的、政治的な安定を徹底して保障し、国家と人民の生命および財産を保護するための重要な事業である。
だが最近、一部の機関、企業所、団体では、法および治安部門の職員や運転手たちに対する掌握・統制を正すことをせず、国家の交通秩序と海洋出入秩序が深く乱れ、国家と人民財産に被害を及ぼす厳重な事故までも発生させている。
これは社会主義経済強国建設を妨害する厳重な害毒行為であり、人民大衆中心の社会主義を孤立させ圧殺しようと悪辣に策動する敵どもを助ける、利敵行為である。
朝鮮民主主義人民共和国国防委員会、人民保安部は、共和国政府の委任に従い、乱れた国家の交通秩序と海洋出入秩序を決定的に正すため、以下のように布告する。
1.交通事故を起こしたり、交通秩序を違反したりする行為を絶対に行ってはならない。
1)全ての職員たちは、交通事故を起こしたり、交通秩序を違反したりした場合には、誰が所有する車であろうと回収し、運転手はもちろん、責任を負うべき(高位の)職員も法的に厳格に処罰することを肝に銘じ、交通秩序を打ち立てるための事業を責任をもって組織し、執行せよ。
1.自身の単位の職員と運転手、従業員、住民たちに対し、交通秩序を自覚的に守るよう、教養と統制をしっかりと組織し、進行させよ。
2.運転資格が無かったり、免許運転資格級数を所有していない者に運転機材を操作させる行為、技術的に整備されていない自動車を運営させる行為など、交通秩序に違反する行為をしてはならない。
3.自身の単位を特別視し、自由な運行、制限された道路での運行を組織したり、運行すると担当機関に強引に提起するなど、交通秩序を正す事業に支障をきたす行為をしてはならない。
4.車道や自転車専用道、横断歩道の標識など、道路標識安全設備などを規定通りに建設または設置し、正常な保守管理を責任を持って組織、執行せよ。
これに違反したり、黙認、助長し厳重な結果を発生させた場合には、更迭解任し、刑事責任に至るまで法的に厳格に処罰する。
2)全ての運転手たちは、夜間に街路灯のある平壌市において、自動車の遠距離灯火(ハイビーム)を点灯して通行する行為を絶対に行ってはならない。
首都地域の中で、夜間に遠距離灯を点灯し運行する自動車は、所属する機関と搭乗する人物に関わらず、無条件に回収する。
3)全ての運転手たちは、平壌市の三叉路、十字路において、青信号が消え赤信号が点灯した際、停止線を超える行為を絶対に行ってはならない。
区域によって、自動車は 所属する機関と搭乗する人物に関わらず、無条件に回収する。
4)全ての運転手たちは、自動車運行秩序を違反する行為を絶対に行ってはならない。
飲酒または高速での運転行為、承認なく車体に標識を付けたり(車輪を含む)、窓にスモークを貼る行為、偽のナンバーを付けて運行する行為、交通信号と交差点の秩序を乱す行為など、自動車運行秩序を違反する行為をしてはならない。
運行してはならない道路を強引に走る行為、自動車を使って金儲けをしながら事故の危険をもたらす行為など、自動車運行の秩序を乱し、交通の複雑性を造成してはならない。
こうした行為を行った場合には、自動車が所属する機関に関わらず、自動車を無条件に回収し、厳重な結果を起こしたり人を轢き殺し逃走した者は、その刑事責任までを厳しく処罰する。
5)全ての住民たちは、交通秩序と自転車運転の秩序を違反したり、自動車の安全通行に支障をもたらす行為を絶対に行ってはならない。
横断歩道ではない車道を横断する行為、運転中の自動車の前に立ちふさがったり、つかまる行為、酒またはビールを飲んで自転車に乗る行為、通行が禁止された道路を走る行為、道路と道路の間で禁止された電動自転車に乗る行為をしてはならない。
こうした行為を行う場合、罰金を科したり自転車を没収し、被害者の過失で事故が起きた場合には、責任があると思われる者も法的に処罰する。
2.海洋出入秩序を違反する行為を絶対に行ってはならない。
1)全ての機関、企業所、団体は、境界海上、漁労禁止界線に違法に侵入し、漁業を行う行為をしてはならない。
公海海上、漁労禁止海上および国境海上、漁労禁止界線に意図的に侵入した船は没収し、これを幾度も繰り返す場合には、(船が所属する)企業所、団体を解散させ、当事者はもちろん、非法行為を組織し、保障した者も法的に厳格に処罰する。
2)非法的な海洋への出入りおよび生産活動を絶対に行ってはならない。
1.全ての機関、企業所、団体、商人たちは、非法的に水産単位を組織、運営したり、個人の船を機関に形式上だけ登録する行為、非法的に労力を募集し海に出入りする行為、あちこちで船舶を所有し生産活動をする行為、養殖場と漁場を強引に分割利用する行為をしてはならない。
2.個人、家族、親戚同士で船を建造したり、非法的に売り買いし、停泊場でない場所に泊めて利用する行為、船舶検閲哨所の検閲を受けずに海上に出る行為をしてはならない。
3.海上出入文献(書類)と電子位置追跡機械(GPS、通信機、海図)をはじめとする航海機材と救命艇、救命チョッキなど事故予防機材を持たずに海上に出る行為をしてはならない。
4.船の入港期日を守らず、海上通行管理を複雑にする行為をしてはならない。
こうした行為を行った場合には、船を差押え、厳重な事故をもたらした場合には、(船が所属する)機関、企業所、団体を解散させ、責任者は刑事責任までを法的に厳格に処罰する。
3)海上で犯罪行為を絶対に行ってはならない。
1.海岸、海上において、別の単位の漁具、資材、水産物を強盗したり、奪ったり、集団で暴行する行為を行ってはならない。
2.海上で密輸、密売行為をはじめとする犯罪および違法行為を行ってはならない。
こうした行為を行ったり、黙認、助長、共謀した場合には、企業所、団体を解散し、船を没収するなど、法的に厳格に処罰し、厳重な行為を行った場合には、責任者を刑法に至るまで厳罰に処す。
3.全ての職員と運転手、従業員、住民たちは、交通秩序と海上秩序を正す事業において、事故調査に干渉し不当な圧力をかけたり、威嚇する行為、取締りに応じなかったり、暴行する行為を絶対に行ってはならない。
こうした行為を行った場合には、職務と所属、功労に関わりなく、現場で逮捕したり法的に厳格に処罰する。
4.監督統制機関の職員たちは、物質(賄賂)、人間関係に丸め込まれ、交通秩序と海上秩序違反行為を原則なく庇護したり黙認、助長させる行為を絶対にしてはならない。
5.全ての公民たちは、高い政治的、階級的な覚醒をもって、交通秩序と海上秩序を違反する行為に対し、鋭利に観察し、該当機関に即時に申告しなければならない。
申告できないよう妨害したり、申告者に復讐する行為を行った者は、さらに厳しく処罰する。
6.交通事故を発生させ逃走する行為、海上で暴行、強盗行為を行って人命被害を発生させ、生産物や漁具資材を奪う行為を行った者達は、この布告が公開された日から一か月以内に自白せよ。
布告公開後、一か月以内に自白した者は寛大に処理する。
7.全ての機関、企業所、団体(貿易、特殊単位を含む)と公民たちに適用される。
国防委員会 人民保安部
主体104(2015)年 2月4日