羅津港の埠頭。近海の漁業資源は枯渇気味だという。1997年8月 石丸次郎撮影(アジアプレス)
羅津港の埠頭。近海の漁業資源は枯渇気味だという。1997年8月 石丸次郎撮影(アジアプレス)

 

◆ 船舶没収、組織解散まで警告 海の「自由空間化」も恐れる?

◇ 水産業は金と権力が集まる場所 張成沢の粛清原因の一つとも

布告文の二章では、「海洋への出入秩序に違反する行為を絶対にしてはならない」としている。様々な機関と団体は、境界海上、漁労禁止線で違法な漁業 を行ってはならないということや、違法に海洋への出入りすること、そこでの生産活動を禁止するなど、「海洋での犯罪行為」を細かい内容を挙げながら警告し ている。

水産業は、北朝鮮では資金力のある商売人たちが集まる業種としてよく知られており、大金を稼ぐめために違法な投機が盛んな分野でもある。操業許可を 持たない企業が船を所有し漁業を行う程度のことは当たり前で、時に個人までもが国家に登録せずに無許可で船を公然と運用し、生産活動を行っている。

国家機関も例外ではない。外貨稼ぎのために貿易を行う機関だけでなく、労働党や司法機関までもが水産業に進出して、より多くの水産資源を得ようと、 水面下で争いを繰り広げている。2013年末に発生した張成沢氏の粛清も、水産資源をめぐって、金正恩氏の側近と摩擦があったことが原因の一つとなったと いう分析もある程だ。

東北部に位置するハムギョン北道羅津(ラジン)地域で水産業に従事していたことのある脱北者は
「現在、国家機関に個人で船を登録した船主たちが、片っ端から魚を乱獲しているため、近海の水産資源は枯渇し、ロシアの領海まで侵犯している有り様だ。船員がロシアの海上警備隊に捕まり、領事館を通じ北朝鮮に追放される事件が頻発していた」
と証言する。

商人たちは、国家機関に自身の船を登録してもらう代わりに、月の水揚げの2~3割を上納しているという。残りは取り分となるが利益率は高い。国家安 全保衛部(秘密警察)の関連機関に登録された船舶は「保衛部の船」と呼ばれ、基本的に受けなければならない検査も省略され、海に思い通りに出入りしている のが実情だ。

このように統制が取れない状況であるため、安全を確保するための装備も持たない船が多い上に、船を駆って脱北する事件が発生することもある。

このような現状から判断するに、海への出入秩序に関する布告内容が示しているのは、一つ目にロシアとの外交的な葛藤を未然に防ぐための処置である可 能性がある。二つ目に、車両の登録違反のケースと同様に、漁業利権への無秩序な参入によって経済活動の統制が緩んでいることに当局が頭を痛めていることが 推測される。また、海洋という当局の目が行き届かない空間に人々が勝手に出入りしているという「自由空間化」など、公安秩序の弛緩にも危機感があるものと 思われる。

別の章では、監督機関の統制によく従うことと、統制を行う側の汚職を警告し、人民が自覚を持って違反行為を申告するよう強調している。最後の章では、北朝鮮の布告文の慣例通り、「違反行為」を行ってきた者に対し、定められた期間内に自首することを呼びかけている。
次のページへ ...

★新着記事