「給料2万円、モスルのIS戦闘員の8割は地元採用」
イラク・シリアで勢力を拡大する武装組織「イスラム国」(IS)。日本人人質事件以降、日本のメディアはISを大きく伝えるようになったが、組織の実態は見えてこない。
イラク・クルディスタン地域治安当局との長期にわたる交渉を経て、イラクで拘束されたIS戦闘員に4月中旬、インタビューした。小さな取調室に腰を丸めて入ってきたのは、戦闘員のアリ・ハラフ(26)。両手に手錠がはめられ、Tシャツとジーンズにサンダル履きだ。濃い緑の目をした彼はモスル出身。昨年末、モスル郊外で起きた戦闘中にクルド部隊ペシュメルガに拘束された。
イラク第2の都市モスルは昨年6月ISが制圧したが、周辺地域ではいまもイラク軍とペシュメルガ部隊がISとの激しい戦闘が続いている。アリ・ハラフによると、前線で戦うIS戦闘員の8割以上が地元で採用されたイラク人だという。彼はなぜ、どのような経緯で戦闘員となったのか。【取材:玉本英子】
IS部隊は重層的に構成されている。思想や行動において最も過激なのが外国人戦闘員と戦闘経験が豊富なイラクやシリア人の戦闘員だ。これらは幹部を務める場合が多い。そして支配地域の町や村の住民でISに参加した戦闘員がいる。
外国人は思想的に強固で、戦闘で負傷して拘束されそうになるとたいてい自爆ベルトや手榴弾で自決する。一方、支配地住民の戦闘員はIS組織に共鳴して志願する者がいるが、給料がもらえるからといった理由や、支配下におかれた部族内部の動員によって参加する例もある。このためイラク軍やクルド・ペシュメルガ部隊に拘束されるのは地元出身の戦闘員が多い。
インタビューした戦闘員の証言は、ISの組織全体を反映するものではない。しかし、その貴重な証言から、これまで知られなかったISの構造の一端が見えてくる。インタビューはイラク治安当局の施設内で当局者立ち会いのもとで行われたが、施設の場所の特定に関すること以外は話を遮られることはなかった。
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