◆男たちは次々と銃殺して処刑
武装組織「イスラム国」によるクルド系少数宗教ヤズディ教徒(ヤジディ教徒)の集団殺戮と迫害のニュースは、世界に衝撃を与えた。イスラム国に拉致された後、9月上旬に決死の脱出をした女性に、イラク現地で話を聞いた。【玉本英子】
シリア国境に近いヤズディ教徒の町シンジャルがイスラム国に制圧されたのは8月上旬。町を警備していたクルド兵は敗走。住民の多くは近郊の山に逃れたが、逃げ遅れた人々は町や村で拘束された。写真の女性(19歳)は、薄茶色の瞳を涙で曇らせながら重い口を開いた。イスラム国が町に攻め込んだとき、生後8か月の乳児を抱えていた彼女は、夫とともに逃げたが、隣町で捕まった。拘束された人びとは男女に分けられた。ヤズディ男性50人が路上に並ばされ、その場で銃殺された。「激 しい銃声のなか、男たちは次々と崩れ落ちた」と話す。そばに戦闘員がいたため、夫を探すこともできなかった。後に知人女性から、自分の夫、夫の兄弟、父親が撃ち殺されるのを見た、と聞かされた。
女性たちはバスに乗せられ、イスラム国支配下の警察署に連行された。バスの窓からは50を超える死体が転がっているのが見えた。黒マント姿のシーア派女性の遺体もあったという。ヤズディ教は神(ホェダー)を信仰するが、神にそむいたといわれる孔雀天使を重要視するため、イスラム・スンニ派の過激組織から「邪教」とみなされ、標的にされてきた。彼女は、警察署にいた戦闘員たちに「ヤズディは神を否定する愚者だ」と殴りつけられた。彼女ら、若い女性は選り分けられ、北部の大都市モスルへとバスで移送された。(つづく)
次>> 「イスラム国」に強制結婚させられたヤズディ女性(下)~女性は「戦利品」
※初出 週刊金曜日2014年10月31日号を一部修正