◆命がけの脱出
大きなホールに着くと、1000人ほどの女性が監禁されていた。2週間で与えられた食事は、わずかな水とパンの切れ端が1日に2つ。ときおり戦闘員らしき男性たちが女性を見にきた。顔写真を撮る者もいて、「笑え」と叩かれた。ある夜、部屋の片隅で同郷の2人が自ら命を絶った。数日後、結婚を強いる数人の男が現れた。受け入れないと殺すと告げられ、彼女は故郷に近 いモスルに住む中年男性との結婚を受け入れた。それはイスラム教に改宗することでもあったが、子どものために生きのびることを選んだ。
男性の家に連れて行かれ、妻としての生活を強いられた。家には男性の仲間とみられる戦闘員らが常時監視していた。2週間たったある夜、彼らが寝ているのを確認した彼女は幼い子どもを抱え、勝手口から外に出た。震える足取りで暗い夜道を4時間さまよった。明け方、通りでひとりの男性と目があった。捕まることを覚悟しながらも男性に近づき、自分がヤズディ教徒で戦闘員のもとから逃げてきたことを告げた。
驚いた男性は「やつらに見つかるから早く入りない」と自分の家に招き入れてくれた。そして、彼女の親族に電話をかけ、安否も伝えてくれたという。男性は暖かい食事を出してくれ、「私もイスラム教徒だ。だが彼らは間違っている。アッラー(神)はあなたたちに悪いことはしない」と話した。数日後、男性のもとにクルド青年が現れた。イスラムの女性が着る服と偽の身分証明書をもらい、男性の車に乗った。ベールで身を隠し、いくつもあるイスラム 国の検問所を抜けた。そして安全なクルディスタン地域にたどり着き、親戚との再会を果たした。
3000人以上のヤズディ教徒がいまも支配地域に拉致されたままと見られる。イスラム国は女性たちを「奴隷」として売買することを正当化する声明を出している。彼女が逃げ延びた町には避難民が押し寄せ、人道機関の支援も十分に届いていない。 【玉本英子】
<< 前 「イスラム国」に強制結婚させられたヤズディ女性(上)~殺戮と性的暴行、そして脱出
<イラク>「イスラム国」拉致のヤズディ女性は語る(1) 戦闘員と強制結婚、暴行受ける日々
※初出 週刊金曜日2014年10月31日号を一部修正