「悪魔の判決」。そう酷評されたのが2011年8月の大阪高裁判決(第1陣)だった。石綿被害について国は責任回避のために嘘と隠ぺいの主張を繰り返して きたが、2014年10月、「泉南アスベスト国賠訴訟」で、最高裁は国の責任を断罪して終結した。日本における「アスベスト被害の原点」とされるこの訴訟 を改めて振り返るとともに、残された問題について考察する。第6回目はこの「悪魔の判決」について詳しくみていく。(井部正之)

大阪・泉南地域のアスベスト紡織工場内でかつて撮影された記念写真。女性工員が手にしているのはアスベストでつくられた糸やひも。アスベストの危険性について教育もないため、防じんマスクもせず、カメラに笑顔を向けている(泉南地域の石綿被害と市民の会提供)
大阪・泉南地域のアスベスト紡織工場内でかつて撮影された記念写真。女性工員が手にしているのはアスベストでつくられた糸やひも。アスベストの危険性について教育もないため、防じんマスクもせず、カメラに笑顔を向けている(泉南地域の石綿被害と市民の会提供)

 

◆ 労働者に責任を転嫁

「アスベストは普通の大気汚染と違ってすぐに健康被害がわかるものではありません。広く国民に知らせ、対策をとらないと防げないという特徴がある。とくに泉南は非常に零細な企業が集まっている。判決はアスベスト問題や泉南地域の特性をまったく見ようとしない」

大阪高裁判決で敗訴後の2011年8月29日、東京都内で開かれた抗議集会で原告側弁護団副団長の村松昭夫弁護士はこう語った。

そしてこう続ける。

「そればかりではありません。国は通達をつくっただけで責任を事業者に押しつけている。防じんマスクをつけなかったこと、それで労働者が悪いんだと いっている。激甚にそして大量に発生したアスベスト被害。私たちは大量のアスベスト被害を知っていた国自身が規制や対策をおこなうべきではなかったか。こ のことを裁判で問うていた。ところが、裁判所は労働者がマスクをしなかったから悪いんだといわんばかりの判決をしました。いのちや健康を守るこうした運動 や裁判に対する重大な敵意さえ感じる判決だと思います」

そもそも一審判決では、
(1)1960年制定のじん肺法で国が局所排気装置の設置を義務づけなかった
(2)1972年の特定化学物質障害予防規則(特化則)制定時に事業場でのアスベスト粉じんの測定で報告・改善義務を設けなかった
(3)国が国民に対して情報提供を怠った
との3点について、国の権限不行使が〈許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠き、違法〉と断じた。しかも国と使用者の「共同不法行為」として、国の一義的な責任を認めた。

これに対して高裁判決は、冒頭で紹介したように、地裁でのこうした認定事項をすべて否定して国の対応が「著しく合理性を欠くものと認められない」と結論づけたのだ。(続く)

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